日記SS | ナノ

チェックピンクに作った内緒


ひとつふたつと小さくアスファルトを濡らし始めた雨は。あっと言う間に屋根へ勢い良く跳ねを繰り返してざぁざぁと耳に煩いくらい。
サンジの口許から上げられる紫煙は雨粒の中に消されていく。
──嗚呼、参った。正直困った。船に帰れそうもない
こんなどしゃぶりの中を走る気にもなれない。買い込んだ食糧を抱えて。
船を降りた時は青空さえ見えていたと言うのに。
見上げた空はそんなつい先刻の事なんかなかったみたいに鉛色の雲を一面に広げていた。


「ナミさんとロビンちゃんは雨に降られなかったのかな?これじゃ迎えにも行けねぇ」


でもきっと。ナミさんの事だから雨が降り出すその前に風の変化だとか空気の流れに気付いていて。大丈夫だと確信もあるから、先ずはやっぱり自分の事かも知れない。
例えば偶然この前を通り掛かった可愛いレディとか綺麗なお姉さんが傘を差し出してくれて「一緒に入って行く?」
「ハァイ!喜んでー!」
「あら?結構濡れちゃったのね、ふふ。風邪引いたら大変、そうね。このまま私の家に来ない?」
「お邪魔します。おおお…いい香り」
「ホラ!早く服脱いで。乾かしてあげるわ」
「ありがとう、って…え?」
「冷えちゃったわね、身体。暖めあいっこする?」
「え?そんないきなりっ…!」
「んっ はぁ、ん。ああんっ」
そんな…いきなり大胆な…あああでもっ…!


「  ────くそコック、てめェ何してんだこんな所で」


お姉さぁぁぁんっ!!!


「って、ゾロォ!?」


ぱちりと開いたその眼の前で。ゾロが訝しげに眉間に皺を寄せている。心底、不審って文字を双眸に滲ませながら。
綺麗な。チェックピンクの傘、その手に。


「何してんの、テメェ」

「そりゃァこっちの台詞だ」

「   可愛い傘で俺のお出迎え?」

「違ェ」


これは、ついさっき貰ったんだと何でもないって風に話出した内容は、サンジにすれば何でもないって訳にはいかなかった。
つまりはゾロも急に降られた雨、借りた軒下でやり過ごしていたらしい。


「偶然通り掛かった2人組の女に渡された」

「レディ達から?貰ったのか?」


この時点で負けた、と思う。サンジの妄想は可愛いレディか綺麗なお姉さんどちらか1人。
しかも。その2人はルームシェアしてるとかなんとか、の。そんな関係らしい。
有り得ないと思いつつも、だって全ては想像を張り巡らせていた世界だ。
ごくりと一拍。


「  まさか家に誘われてねぇだろうな?」

「あ?何で知ってんだ?」


望むべきもないと言ってみた言葉への肯定は早く、
言いたくないと強く思ったその台詞にぎしりと嫌な音を心臓が作ったの、気付かないふりして。けれどやっぱり正直だ。
ぎこちなく、それはサンジの口から零れると言うよりは寧ろ押し出される感じになった。


「い、行ったの、か?」


行って、たら。行っていたらそれは。妄想をそのまま形取って。ゾロは、もしかしたら、
「あたためてあげる」と厚ぼったい唇が音を作らずに息だけでサンジの中でいやらしく、動いた。


「許さねぇ!」

「あ?」

「絶対そんなの許さねぇからな!分かってんだろうなゾロ!テメェは」

「───行ってねェ、行く気なんか毛頭ねェんだよ、おれァ…!」


チェックピンクの傘が未だに弱まる事をしない雨粒を弾きながら、サンジの前で小さく翻った。
ピンク地に赤のチェック柄、その向こうにまた違う淡いピンク色。
ゾロの、頬の色。


「おれはてめェのなんだろーが」

「ゾロ…ッ」


サンジの頬も同じ色に色付く。


「俺の許可なく俺以外に触らせんじゃねぇぜ?許可なんか出してやらねぇけど」


雨の日もそんなに悪くない。
頬はますます強く、雨に濡れて色を含んだみたいに、濃い紅へと変わっていく。
2人は雨音に隠れながら小さなキスを、した。



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サイト更新が出来ずに蓄まった欲求から突然書きたくなった甘ったるい2人。色々と毒しかなくてスミマセン
(2011.06.22)



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