日記SS | ナノ

指先の攻防



真っ黒に薄暗い部屋の中、携帯がチカチカと瞬いて。
告げるメロディーは耳に馴染む聞き慣れたそれ。別にどっかのサイトから課金して手に入れた訳でも何でも無く。特別に手に入れた、並盛の校歌。
こんな時間に何なの?もう寝ようとしてたんだけど
今日は何時もよりも多く噛み殺したりしたから、ゴールデンウィークだからなのだろう群れを作る草食動物が増えて困る。
やけに疲れた。体力って言うより気持ち的な方で。草食動物って見てると噛み殺したくは勿論そうだけど、他に何だか哀れな気分になる。群れてなきゃなんも出来ないんだからね。

数秒の着信音、携帯は静かになって。
一瞬無視しようとしたそれは、携帯のウインドウが一定間隔で光るの、しっかりと雲雀の眼に付いて。眼を閉じたって何だか光ってる気がして仕方がない。
待ち受けには白い四角のマーク。
きっと。草壁とかだったらメールじゃなく電話だと思う。
だったら誰?間違いだったり悪戯だったらどうなるか分かってるんだろうね
わざわざ取らなきゃ良かったかなと小さく苦味の混ざった息を吐き出して。取り敢えず開いてみる。


2011/ 5/ 4 23:53
From:笹川了平
Subject:極限!


了平…?
珍しいと思う。だってどっちかって言うと了平もメールって言うより電話の方が圧倒的に多い。
だからって僕の睡眠を邪魔していい理由にはならないけどね
それでもその名前に知らず知らず。指が早さを持ってスクロールしていた。


ヒバリ!今どこに居るのだ!?


たかが携帯に届いたメールの文章だって言うのに。
了平の快活さが伝わってくるんだからほんと凄いよね。
夜だから家に決まってるじゃない、何なの?急に
馬鹿馬鹿しいなんて思いながら携帯の隅っこ、ボタンを押して。返信用の画面を開く。


2011/ 5/ 4 23:55
To:笹川了平
Subject:Re:極限!
どこって、家だよ


素っ気ないかな?と思いつつ。送信が完了される。
すると。直ぐにまた携帯が鳴った。


2011/ 5/ 4 23:56
From:笹川了平
Subject:Re2:極限!
今大丈夫か?


2011/ 5/ 4 23:57
To:笹川了平
Subject:Re3:極限!
大丈夫だよ、珍しいね、君が気を使うなんて


2011/ 5/ 4 23:58
From:笹川了平
Subject:Re4:極限!
いや、だが、しかし!部屋に電気が付いてないからな、どっか具合が悪くて寝てるのかと思ってな、


───?
部屋、って部屋?僕の?何で君がそんな事分かるのさ
寝転んでいたベッドを少しだけ小さく軋ませて。
窓側。雲雀はひそりとカーテンを指で横に寄せた。


「  一体何してるの」


呆れて零れた言葉。けれど、その言葉に侮蔑なんてものは一切含まれてなんかいない、有るのは綺麗ななんだかあったかい笑みで。
家の前、雲雀からの返事を待っているのだろう。右左ぐるぐる忙しなくその場を歩く了平は、携帯をぱかりぱかり開いたり閉じたりを繰り返す。
暫く見ていたい気もするけれど、このまま返事をしなかったら君はどうするんだろうね、帰るんだろうか?それは少しだけだけど勿体ない気がするから、思索して。
文字の羅列なんて返してやらない、携帯は直ぐ傍の机の上、がらり。窓を開ければ室内に広がる夜の、まだ夏とは違う、涼しい空気が広がった。


「  何だか特殊な事してるけどどうしたの?」

「ヒ、ヒバリ!な、何をしてるんだ!?」

「それはこっちの台詞だよ、君こそ不審者で捕まるよ」

「今日だけはそれは極限に困る!」

「───今日だけ?」


何それ、と雲雀が首を傾げた時、了平の携帯が小さくメロディーを奏でた。
雲雀を見上げていた眼、直ぐに携帯に向いて。そのメロディーは了平の指が2・3回ボタンを押した事で止まった。
何?僕と居る時に他の誰かからのメール?
きっと了平の事だから妹とか普段仲良い草食動物とかなんだろう。
あの慌て方面白くない、そんなに大切なメールなのかそれとも雲雀にはバレたくない何かなのか、眉宇に寄った皺に更に納得がいかないみたいに顰めた雲雀の顔を。向き直った了平の笑顔が追い掛けた。


「極限に誕生日おめでとうだ!ヒバリ!」

「  ────え?」

「何だ、その反応は?まさか忘れてたのか?」


夜に輝く太陽の笑顔で了平が笑う。手に持つ携帯の画面を逆の手、人差し指でさして。
きっと。見えないけれど、時計が[5月5日 0:00]丁度を示しているんだろう。


「      了平」


1番に言いたかったからな待ち伏せしてたのだ!続ける、その僕の堪らない気持ちを作る相手の名前を呼ぶ。
メールを無視しなくて良かったと思った。



「受けとめてよね」



窓枠に足を掛けて。力のままに踏み切った。
風を切る髪がシャンプーの匂いと一緒に舞って。
次にした香りはフローラル系の柔軟剤のもの。妹が選んで買ってきているんだろう、鼻腔に優しい匂いで。


「    なっ!ヒ!ヒバリ!無茶をするな!怪我をしたら──‥!?」

「ありがとう、了平。嬉しいよ」

「そ、それなら良いが…でも、」


危ないと続けたがる口唇を自分のそれで塞いだ。
ほんと、何時から居たんだろう
重なった唇に夜陰の冷たさが分かる。
けれど抱き合った身体は凄く熱くて。だから、


「ねえ、了平?プレゼントは?」

「おめでとう、だけじゃ駄目だったか?」

「そうだね、全然足りないよ」

「我儘な奴だな、仕方がない、明日まで待ってくれ!極限にヒバリが気に入るやつを…!」

「学校の休み、明日までだね」

「ああそうだな!だから明日を使ってヒバリへのプレゼントをだな、」


小さく雲雀は笑う。


「君は馬鹿だね」

「それは聞き捨てならん!極限ぷんすかだぞ!」

「君は自分自身がプレゼントになると思わないの?」

「え、あ…?」

「明日が最後の休みだよ」

「いっ!家に電話を極限にするぞ!」


ジーパンの後ろのポケット、突っ込んだ携帯を覚束ない手で了平が引っ張り出して。
通話口の向こうでコール音がする。


「今夜は張り切ってよね」


揶揄って。寄せた口唇で了平の耳に囁けば。
その身体はもちろん、声も固くなったから、電話相手もぎこちなさにきっと不信がってるだろう。
本当に飽きないよね、君は
するりと自分をしっかりと抱き締める腕から逃げて。先に部屋に戻ったんだろう、雲雀の背中を見遣る了平の頬は。
文字通り、真っ赤、で。



「  ヒ、ヒバリはたまに積極的すぎて極限に緊張するな」


追い掛けるみたいに。
開け放たれたまんまの玄関の扉を潜る、了平の残した台詞が空気と混ざってふわりと消えた。



ーーーーーーーーーーー
雲雀さん誕生日おめでとぉぉぉございます!
この後ハッスルします、2人でねっとりしっぽりと(^ω^)笑
誕生日当日0時におめでとうメールって嬉しいですよね、了平さん携帯にメール送ってないけどね。やっぱり直接言われる方が嬉しいからね、了平さんも雲雀さんの返事を待って「今から出て来れるか?」って言おうとしてたんですよ。きっと。
了平さんの携帯が鳴ったのはあれはアラームです、本当にどんぴしゃのタイミングで言いたかったからセットしてたんだと思われます。
(2011.05.05)




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