「ケーキ作れ 蜜柑入ったやつ」
お願いとかそんな可愛いの全部吹っ飛ばして。唐突の命令は。
今日の晩飯何にしようか考えるキッチンの澄んだ空気を震わせて、響いた。
煙草を啣えていた口許、突き出すみたいにして。眉間に皺を寄せる。
「ボケたのか?クソマリモン。さっきおやつ喰わせてやっただろーが」
「うるせェ 良いから作れ」
ものを頼むのに煩ぇだとかそしてこの態度。むちゃくちゃすぎる。
喰いたりねぇのか、だいたい「おかわりあるぜ?」なんて何回も聞いてやったのに、(もっと喰えよ!おかわりして欲しいのはルフィとかよりも本当は)、おかわりしなかったのはゾロ、だ。
第一に。どっちかって言うと喰うけど甘いの苦手なゾロがケーキなんてもの喰いてぇとか、普段なら酒とかになるはずだろうリクエストに。
「 ルフィか?もしくはチョッパー?」
「あ?何でおれがあいつ等の為にンな事言わなきゃいけねェんだ」
「ん?違ぇの?」
じゃあ何でだ?言い掛けた言葉を飲み込む。
真っ直ぐで真っさらな。眼。どこかねめ付けるみたいな凶悪さ含んでる、そんなの向けられたら。
それに。ゾロからのリクエストとか滅多にない訳、で。
「蜜柑、ナミさん分けてくれるかなぁ」
ぷかりと白い煙の塊を、口唇が吐き出した。
***
「スポンジはふわふわで中にくたくたに煮詰めた蜜柑のジャム入れて焼け」なんてざっくりとした、でもゾロにしちゃ妙に細かいリクエストに。変な感じを思いつつ。
それでも。ゾロがそれが良いって言うならその希望は叶えてやりたいのが筋。
晩ご飯の準備そっちのけで。俺はナミさんから頂いてきた蜜柑。皮も刻んで一緒に鍋に入れた。くたくたになるまで煮詰めたほろ苦いマーマレード。
そのジャムをねかせておいた生地に折り込んで。暖めておいたオーブンで焼き上げる。
ふわりと。甘い香りがキッチンを埋め尽くした。
「ホラ。リクエストの品だぜ」
蜜柑ジャム入りのシフォンケーキ。
ゾロの前に出せば、
「てめェが喰え」
思わず聞き返したくなる言葉、で。
俺は息を詰めた。
「はあ!?何で俺が自分で作って自分で喰うんだよ!テメェが喰いてぇって言うから──…」
「言ってねェ」
「あ?」
「喰いてェとは言ってねェだろーが」
───そう言えば、ひとっことも。聞いてねぇ、…か?
今更ながらに思う。
だからと言って素直に「いただきます」なんて喰べる訳にもいかない、俺がもう1個言葉を被せようと口を開き掛ければ。
「 えっ?」
変な空気になったキッチンに弾んだのはナミさんの、声。
扉を開けたナミさんはロビンちゃんと一緒に何処か驚いたような、
「コックさん 蜜柑、って晩ご飯に使うんじゃ無かったのね」
「そのケーキ…」
「あ、これ?これは」
チッと。小さく聞こえた咄呵、は。
ゾロが作れって…、続ける俺の横。きっとゾロのもの。
「ゾロ!やっぱりあんた起きてたんじゃない!」
「聞いてたみたいね、ふふっ」
状況が理解出来ない俺を放っぽって。
ガタリとゾロが音を立てて椅子から立ち上がった。
「 ───もうっ!予定台無し!」
「可愛いわね、ヤキモチ」
「ナミさん?ロビンちゃんも えーっと、何?」
「今日サンジ君の誕生日でしょ、だから日頃の感謝も込めてロビンと一緒にお祝いしない?って話してたのよ。それで蜜柑ケーキ2人で焼く事にしたんだけど」
だけど先にゾロがそれを俺に作らせた、…?
「きっと私達が作ったものコックさんに喰べさせたくなかったのね、剣士さん」
「同じもの作る訳にはいかないしね、流石に。誕生日プレゼントに」
キッチンから出て行くゾロの背中に。
俺が焼いた甘酸っぱい蜜柑のジャム入りケーキの香りがふわりと。上がった。
嗚呼なんて
( す て き な た ん じ ょ う び な ん だ ろ う )
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(ねえロビン、やっぱり誕生日だからケーキよね)(そうね)(蜜柑、なんてどうかしら?ケーキに)(いいと思うわ)(生クリームに蜜柑風味を付けるのはありきたりよね、例えば…くたくたに煮詰めたジャムをふわふわに焼いたスポンジの中に入れるってのどう?)(あら、美味しそう)(じゃ決まりね!)(ふふ。大切な蜜柑、コックさんの為に使うのね)(誕生日だもの、サンジ君には毎日美味しいご飯作ってもらってるし、トクベツね!)
(───ゾロ、アンタ今起きたの?)( あァ、)(まさか、聞いてたんじゃないでしょうね?)(何を)(言っちゃ駄目よ!サンジ君に)(聞いてねェ)
サンちゃん誕生日おめでとぉうございまぁぁぁぁぁす!!!
(20110302)