日記SS | ナノ

ひめはじめ


「A HAPPY NEW YEAR!!!」


5秒前から始まったカウントダウンはそう皆で声を揃えて終わった。と、同時に。
それぞれに。ガチンと合わせたグラスの中。お酒がゆらりと揺れる。中でしゅわしゅわと炭酸が弾けて。
夜陰が広がる船上。
月に照らされて光る雫が。星みたいに綺麗に輝いた。

前日から続く年越しの宴だと言うそれは日を跨いだ途端に新年の祝いに変わって。未だに騒がしさは、眠気なんてものそっちのけで。その度合いを増していく一方だった。
ルフィ達にせがまれるままに、年越しそばもお節もお雑煮も、次々に作っては甲板で騒ぐ皆のもとへ。
料理をてきぱきと。支給するサンジはふぅと息を宙に吐く。
少し前のチョッパーの誕生日、クリスマス、船をまるごと大掃除して。そして昨日に、今。
 ───さすがに疲れた
青白い月の光の下、疲弊の混じった嘆息は白く柔いふわりとした塊となって浮かんだ。


「     コック」


吐き出した、雲みたいなマシュマロみたいな見た目とは重さの違うその息が。夜の空気に消えた頃。
サンジの耳に届いたのは。騒ぐ皆の声に掻き消される事も無く。どこまでも深く。強くて。ガツンとした、音。
声に、弾けるみたいにして振り返った。
先の、闇に淡く浮かぶ緑の色が。僅かに動く。


「、何か用かよ?」


ゾロから呼び掛けられた、その事実に。
鼓動が跳ねるのが。心臓の向こう、分かった。


「酒?ツマミ?」


そのまんまの距離つめないで、その離れたところから声を掛ければ。
こっち来やがれ、なんて眼に呼び付けられる。
さっきとはまた色の違う息を吐き出して。一歩。また一歩。
近付く。


「どうしたよ?酒飲み過ぎて立てなくでもなったのか、クソマリモ」


チョッパーの誕生日から始まって、ただでさえ忙しい師走。
そう言えば昨日から料理に追われていてまともに喋ってはいなかったと今更ながらに気付く。
嬉しいの、でもそれを素直に出すのは何だか癪だったから。サンジはちょっとぶっきらぼうに言って見せて。
直ぐ近く。ゾロの横に屈む。


「俺、忙しいんだぜ。ナミさんとロビンちゃんに飲み物のおかわり言われてんだよな」


最初呼び付けたのはゾロだって言うのに。もうそっから何も言わなくて。
あんまり真っ直ぐ見られるとムズこそばゆくなる。
何だって言うんだろう、サンジは。眉尻を下げた。


「おい、ゾ…………?」


ゾロ、言い掛けたその時。
引っ張られた腕に。サンジの磨ぎ澄まされたバランスは見事に崩れた。
腕を引き寄せられた方に身体はぐらんと傾く。

立て直すよりも先に。

唇の先。
少しカサカサした、同じくらいの暖かさだとか柔らかさを持ったものが掠めた。
それはもうほんの数秒。秒って言うか、ミクロンとかナノとか(正確にはこれは時間の単位ではないのだけれど)、そんな位の、僅かな刻。
焦点が合わなかった、閉じる事を忘れた双眸に。ぺろりと赤い水気を纏う舌で唇を、ご馳走様の後みたいにゾロが舐めるのが映り込む。


「ン。もう良い、行け」


掴まれていた腕はゾロの身体を過ぎて。その向こうっ側。押し出されていた。
何だか分からずに。押されたサンジの身体はその勢いのままに2、3歩、力なく進む。


「 ッッ!!?」


時間差。
理解出来てなかった頭に、一気に血液が駆け上がる。
あつい。掴まれた腕も、触れ合った唇も、拍動する心臓も。あつい。

へたり、へたった床の上。
サンジが急に座り込むの、瞬間を見てしまったナミが驚いて声を掛ける中、皆も「何だ何だ!?」「大丈夫か?」続く。
「秘め始め」たった1人だけが告げる的外れな言葉に。
嗚呼、もう。


「─────、ゾロっっ!!!!」


 ───新年早々やられた
もう1度。強請ってなんかやらない、奪ってやる為に。
サンジは振り返って。
  飛び付いた。



ーーーーーーーーーーー
ゾロから仕掛ける所が書きたかったお話。
秘め始めは、言い換えれば姫始めになるよね?みたいな。なんか言葉遊び的な。秘め事にも、新年初の交合にも、みたいな。男同士だと殿始めらしいです。
(20110101)




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