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恋するが故の失敗は


「サンジ!おやつおかわりっっ!!」

「オレも!」

「オレもだ!」

「私もお願いします!ヨホホホ!」


ふわふわの生地にそれを引き立てる蜂蜜たっぷり掛けて。支給したホットケーキはあっと言う間に胃袋に納まったらしい。
人数が増えた事によっておかわりする奴も1人追加。この船のエンゲル係数は増加しっぱなしだ。
「ちょっと待ってろ!」1つ大きくキッチンから叫んで、卵と砂糖とバターを混ぜたその中に薄力粉を4人分作るのにはきっと大きい、それでもこの船ではこんなもんだ、ボールに丁寧にふるった。




「 ────ホラ、追加のホットケーキ おかわりが欲しいならいくらでも作ってやるぜ」


甘く湯気の上げる焼き立ての、トッピングには生クリームとフルーツも飾ってやった。何枚もを重ねたホットケーキ片手に、1枚の厚さだってそれなりにあるホットケーキ、そう言ってやれば。槍が降るだとか医者〜!だとか失礼な事言いやがるから取り敢えず蹴っておく。
多少(どころじゃねぇが致し方ねぇ)食糧に打撃を与えるがそこはコックの腕の見せ所だ。問題ない。


「  ただし明日柔和しくしてるって約束するなら、だぞ!約束出来るなら今日はいくらでも喰わせてやる」

「任せろ!」

「オレもするぞ!でも何で明日なんだ?」

「明日か、明日はな────」


 ────サンジ君て、バカよね


ひそりと内緒話するみたいに。
煙草の紫煙を漂わせた風に一緒になって舞う様にナミさんの声が聞こえてきたの、気付いてはいたのに理解するまでいかなくて。
「えへ、へ?」誤魔化すみたいに笑った。





するが故の失敗





喧嘩をした、それも盛大な喧嘩。
朝一、ゾロが俺の顔を見るなり「うぜェ…!」なんて言いやがったから。会話も何もない、俺がこれから「おはよう、マリモ君」とか言うそれよりも前に。唐突で。呆気に取られて。そっから喧嘩。
本当にここ数日は喧嘩なんて無くて、小さい口喧嘩と言うかアレは生活の一環だから喧嘩ではない、穏やかだったのは。俺が気を付けていたから。喧嘩しないように。
眼の前に来てるゾロの誕生日にその辺の恋人みたいにラブラブしてぇって思うの普通じゃねーか、それも今日「おめでとう」も言わせて貰う事無く失敗だけどな。
 嗚呼、泣きてぇ

棚に誕生日まではって隠してた、ゾロが前に凄ェ美味ェなんて笑った酒は飲んでやった。あんなに捜して買ったのに今は俺の手元、空になった瓶だけが転がってる。
ゾロが飲んでまたあの時みたいな笑顔で「美味ェ」ってニカッて笑うの見たらきっと一生懸命捜した甲斐だとかその時に感じた疲れなんてもの、全部さらっていって。
きっと心が満たされる、でも空になったそれは俺の心も、更にはお腹なんてものさえも満たしてなんかいない。

ぐすりと俺が洟を啜った頃、キッチンの扉が開いた。


「 ───サンジ君、ゾロ知らない?」

「あーその辺で寝てなかった?クソマリモなんかに用事?」

「ちょっとね。じゃあ、私が捜してるからってゾロ見かけたら言っておいてね」

「 ナミさんの頼みであれば〜っ」

「ありがと。それじゃよろしくね、─────。」


今の荒ぶ俺の心をあったかくしてくれそうなナミさんの笑顔。併せる様にちょっとだけ気持ちを持ち上げた。
扉が閉まる、そのほんのちょっと前。ひそやかに聞こえた言葉に。免罪符みたいなの貰った気がした。
立ち上がる靴の踵が小さく鳴るその音が弾んでる気がしたけど、この際知らないふりをしておく。

だって昨日から浮かれてて。
ゾロの誕生日って事に本当に浮かれてて。
明日はクソ凄い日なんだって事、皆が知ってりゃ良いと思って。



「     ゾロっっ!!!! 遅くなった!誕生日おめでとう!!!!!」


ジムに見付けたその姿。
叫んだ声はビリビリと響いてる。
あの時の。苦い煙草の紫煙に混じって聞こえてきたナミさんの言葉の意味を。今更噛み締める。

 ────サンジ君て、バカよね


「遅ェんだよ、くそコック」


本当だよね、ナミさん。


「たんじょうびおめでとう」

「 もう 分か、った…!」

「顔真っ赤だぜ? 俺が1番に言うの待ってた?」

「煩ェ!  そう言うのはてめェの専売特許だろーがっ!他の奴に言わせてんじゃねェ」


 ───お祝いって好きな人にされるから嬉しいのよね
サンジ君は言わなくても良いの?ゾロ、に。
皆もう、言っちゃったわよ?


「キスしていい?」

「なっ…!!?」

「それ、足元の ナミさん達からだろ?蜜柑に花に釣竿に…」

「あァ、置いてった」


馬鹿だね、有難う。


「俺の方がナミさん達よりずっとクソ凄いところで好きだぜ」

「   あァ、知ってる」


距離を測るみたいにその綺麗な翡翠色をした双眸、ねめ付けて。ゆっくり、隔てる空気の壁を減らす。
小さく掠め取るキスをして。上と下の唇を交互に食み、舌を絡ませる。
互いを夢中に求めて触れさせ合った唇は熱くて。
何だか好きすぎて泣いてしまいそうだと思った。



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(……てめェ、酒飲んだだろ)(えーあーうん、えへ)(おれにも飲ませろ)(あー全部飲み切っちまった、ゾロへのプレゼント)(てめェ…!)(また買ってやるから、なっ?)
ゾロ!誕生日おめでとうー!
何だかんだと結局らぶらぶ。
(2010.11.10-2010.11.11)



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