日記SS | ナノ

片方の手袋贈ります


「このクソマリモ!テメェみてぇな奴は海に沈んで一生を終えやがれ!!」

「うるせェ!斬るぞくそコック!!」

「テメェにゃ“斬るぞ”しかねぇのか、ボキャブラリーの少ねぇ脳味噌筋肉野郎め!」

「黙れ、てめェの眉毛は蜻蛉でも捕まえてェのか!」


‥‥本日も船の上で盛大に行われるコックと剣士の喧嘩。留まる事なんて知らず。
喧嘩の理由なんてものは忘れた。
ただ残ってるのは煩苛で。不快感の塊でしかないゾロの姿なんてものを見ていたくなんかなくて(見ていたとしても何の得もありはしないし楽しくはないし結局は苛立ちに戻る訳で喧嘩再開だ)、船は港町に着いていてたかがゾロ相手に時間を無駄にする訳にはいかない、食糧を買い出ししに行かなければならないのだ。
「クソ野郎!」、そう怒声と共に手にしたムートンの手袋(どうやら着いた島は冬島で外気はやけに冷たいし今にも雪なんか降り出しそうだ)、これからして行く予定だった手袋、片方を乱暴にゾロ目がけて投げ付けてキッチンから足早に出た。
バーゲンで購入したそれは投げ売りの様な値段の割りには割と質感も良く手に良く馴染んでそれなりに気に入っている。

バターン!と荒々しく扉を閉めて、サンジはゾロの顔を真面に見ないままにその場から去った。
ぱふっと優しい音を立て顔に当たったムートンの手袋。大して痛みは無いもののゾロの眉間には皺が作られた。


「どう言う心算だ、アホコック…!」


ちっ、と零れた舌打ちは空気へ静かに溶けていった。





本当に何であんな奴が一緒のこの船に乗ってるんだと思う。
顔を突き合わせれば喧嘩しか起きなくて、他には何もなくて。ゾロにとれば俺なんてものはいけすかない野郎でただの料理を作って出す黄色くて巻いてるの、位の認識なんだろうか。
そこまで考えてサンジは首を左右に思い切り振った。
嗚呼やばい。自分で言ってて悲しくなってきた。
取り敢えずこのもやもやをなんとかしなければ胃潰瘍になってしまう、きっと俺は。
手袋付けた手に持つ仕入れて来たばっかりの食糧が沢山詰め込まれた袋、ぎりりと握り締めて。いくら防寒対策してたってぴゅうっと風が吹けば肌に刺さる様に痛い寒さ、手袋投げ付けてくるの早まった帰ってからにすれば良かったなんて後悔も折り混ぜつつ。
それでも投げ付けてきた片方の手袋、これで舞台は整ったし船に戻ったら最後覚えてやがれ。
クソ野郎にゃ手加減なんてしてやる義理もねぇ、更にこの寒さの恨みまでプラスして、強烈なショットをお見舞いしてやる。
よし、と下げていた顔を上げたサンジの表情はキュッと引き締まって。今までとは違うそんな顔、……数秒と持たずあっと言う間に崩れて、ぎこちなく作る笑み。
街の主道からサニー号に戻る道、林の中に見慣れた姿を捉えて。
どうやら相手が待っていたのは自分だったらしい、視線が合う。


「‥────よおクソ剣士。何だテメェ待ち伏せかよ」

「あ?人聞きの悪ィ事言うな」


まあ良い色々略けた、さあ来やがれとサンジの口唇が紡いで。
小さくゾロの口から吐き出される呼吸。辺りの空気までを巻き込んで静寂に包む。
ゾロがタイミングを計るのを、サンジは何時でも対応出来る様に(買ってきた食糧は折角値切って安くで手に入れた。無駄には出来ない、お金を管理するナミの為にも。守りながら応戦するのは少々厄介ではあるのだが)少しだけ足の踵を浮かした。
しかしそんな準備なんて微塵も役には立たなくて。
次の瞬間、サンジを襲った衝動に対応なんて出来ずに固まるその身体。


「なっなっなっ ゾロッッ!!?」

「…黙れ。騒ぐな」

「でも な、にして…!?」


身体を巡る全血液が足先から脳天まで一気に掻け昇る。顔だって真っ赤だ。
だってゾロが…ゾロの、くせに……


「手、繋い、で…??!」

「てめェ、が片方の手袋投げて寄越したんだろうが…っ 違うのかよ!?」


見るゾロの片方の手には手袋、もう片方にサンジの手。サンジの手をぎゅっと握って。
見る自分の手。食糧の袋を持つ手袋をした手、もう片方にゾロの手。
外気で冷えたそれはゾロの手に握り締められていて、同じ位赤いゾロの手。
どうやら待っていたのは5分10分では無いらしい、サンジもそのひやりとした手にぎゅっと力を入れて掌を隙間なく縫い付けた。


「───暖ったけぇな、へへっ」

「‥‥嗚呼。」


投げ付けた片方の手袋。
決闘を申し込む他にこんな使用方法があったらしい。


「悪くねぇ、コッチの方が」

「あ゙?」

「テメェが考えた回避方法なのか?」

「何がだ?言っとくが2度目はねェ」


嗚呼…天然か
甘過ぎる。ゾロのこう言うの、不意打ち過ぎて負いる。
コノ世間知らずなクソ剣士め、なんて最大の賛辞を贈ってやろう。
序でにキスなんかしてやったらどうこの鉄面皮崩れるんだろうか、試してみるのも悪くない。



----------
明日はきっとまた喧嘩の日。それでも───…
もう手を繋げば良いよ\(^q^)/、どうやらゾロはサンちゃんから手を繋ぎたいと申し込みされたと思っている模様。なお話。
好きあっててでも巧く伝えられなくて、これが初手繋ぎで勿論キスなんて未だな初々しい感じのそんな2人なのでした。
(2010.02.14)




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -