〇2nd harmony


あれから30分も経たずに気づけばどこかの峠の頂上へと到着していた。

そこには少しギャラリーができており、近づいてきた白黒の車に気づいた眼鏡の青年がこちらへと近寄ってくる。

それを合図かのように運転してい青年は車を降り、亜季も続くように急いで車から降りた。



「急に悪かったな。ありがとよ」

「ああ、俺は別にいいが・・・その女の子と何か関係があるのか?」

「それより、連絡した男は・・・・」


「お前が埼玉最速の奴か?」


「あ?」



いきなり声をかけられ、話を遮られたことに苛立ったのか少し眉間に皺を寄せながら振り向けば、ひとりの男がニヤニヤと笑っていた。

そしてそいつを見て亜季は怒鳴り散らしたかったが、もはやこちらに気づいてすらいないことに怒る気力もそがれ呆れる。



「(目の前に彼女いるのに気づかないとか・・・こいつ、本当にダメだわ)」



もうすでに気持ちはすっと冷め切っているせいか、思っていた以上に冷静だ。

そしてあれよあれよとここまで送ってくれた青年とクソ彼氏とバトルが始まることとなった。
甲高いスキール音を鳴らしながら一気に二台が去っていく。



「何があったか聞いても大丈夫かい?」

「え、あ、はい」




眼鏡の青年が優しく微笑みながら話しかけてきてくれた。

ここまでのいきさつを一通り話し終えたら、予想通りドン引きして顔が引きつっている。



「それは・・・すごいね」

「私もすごい展開に頭ついていかないんですよ・・・・ほんと、あんなのの何がよかったのやら・・・」



自分の見る目のなさに何度も自己嫌悪に蝕まれる。
そんな様子を見て同情するしかない眼鏡の青年は「ははは」と苦笑いするしかなかった。



「ちなみに家はどこなんだい?」

「栃木です」

「ずいぶん遠くから・・・熱心なことだね」

「まさかバトルのためとは思ってなかったですけど。ボコボコに負けてきたらいいのよ、あんな奴」

「はは、まぁ大丈夫だよ。あいつは・・・負けないから」




そういった彼の横顔はどこか誇らしく、何故かすごく説得力のあるというか、彼が負けないといったら負けない、有無を言わせない迫力があった。

走り屋の世界のことはまったく分からないのでどれほどの実力者なのかは知らないが、これだけ言い切れるってことはそれだけの実力があるということ。

凄い人に助けてもらったのかも知れない。




そう思いながらバトルが終わる間、眼鏡の青年と他愛ない世間話をする。

時間にして30分も経っていないであろう頃、先ほど走り去っていった白黒の車が戻ってきた。



「あ、帰ってきた」

「やっと決着ついたか」

「え?もう終わったってことですか?」



ニコッと笑った眼鏡の青年は戻ってきた白黒の車へと歩み寄っていき、その後を急いでついていく。
そして助けてくれた青年も車から降りてきた。



「やっと終わったか」

「以外としぶとく引っ付いてきてよ。まぁすぐぶっちぎってやったが」

「そうか。まぁあのめちゃくちゃなセッティングしてる車にしてはいい出来だったんじゃないか?」

「かもな」


「あ、あの!あいつは・・・」




二人が話してるところで割り込む。

戻ってきたのは白黒の車だけであのクソ彼氏の車が見当たらない、というかエンジンの音さえ聞こえないのだ。



「ああ、あいつならどっかで刺さってたぞ」

「刺さる・・・?」

「調子乗って事故ったってことさ」


「え、ええ・・・・」




可哀相とか大丈夫なのかという感情は一切わかず、まさかの終焉にもう言葉も出なかった。

あんだけ啖呵切って行ったのにカッコ悪いにもほどがある。

ただ、内心すごくスッキリした。

彼女を真っ暗な峠道に置いていった罰が当たったんだ。ざまぁみろ。


そう思ったら思わず笑いがこみ上げてきて、いきなり笑い出したことに青年二人はぎょっとする。




「あ、はは・・・!すみません、・・・なんかカッコ悪すぎて・・・ははッ!おかしい・・・!!」

「やっと笑ったな」

「え・・・?」




予期せぬことを言われて視線を向ければ微笑みながらこちらを見てくる青年と目が合う。その整った顔とあいまった綺麗な微笑に思わずドキッとした。



「ずっと泣いてるか怒ってる顔しかしてなかたからよ。お役に立てたようでよかったぜ」

「あ・・・ありがとうございます。助けていただいた上にここまでしていただいて・・・」

「いいよ気にするな。俺も腹立ったから一泡吹かせてやりたかったしよ」

「私もすごくスッキリしました。ほんとありがとうございます」




感謝の気持ちを込めて一度頭を下げ、上げたところでニコッと笑い返せば一瞬青年が目を見開いてたじろいだ気がしたが、気のせいだろう。



「私は水野亜季。お名前、聞いてもいいですか」

「あ、ああ。そういえばお互い名乗ってなかったな。俺は秋山渉。こいつはいとこの延彦だ」

「秋山延彦です。よろしく」

「渉さん、延彦さん。ありがとうございました」




そういって三人でふっと吹き出し、真っ暗になった峠に不釣り合いなほど明るい笑い声が響く。




これが、私と彼の奇跡の出逢いの始まりだった――――



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