「今日は悪かったな。邪魔したみたいで」
「ううん、大丈夫。悠菜も会いたがってたし」
そういいながら、渉はちらりとどこか元気がなさげな亜季を見る。 なんとなく、彼女の心境は察していた。
「ねぇ、渉」
「なんだ」
悠菜を家まで送っていった後、二人は真っ暗な高速道路をレビンに乗って走っていた。 今日は亜季の家に泊まることになっているため、埼玉ではなく栃木へと向かう。
真っ暗な車内を道路の端に立っている街頭のライトだけが照らしていた。頬杖をつき車窓から真っ暗な景色をただひたすら見つめていた亜季が口を開く。
「私・・・余計なことしたかなぁ」
「何が」
「悠菜のこと・・・お節介だってのは分かってるんだけどさ・・・今日みたいにいつまでも傷ついたまま泣く姿を見てられなくって・・・」
脳裏に必死に声を殺しながら後部座席で泣く悠菜の姿があった。この五年の間で何度も見た光景。
年を追うごとに回数は減ってきてはいるが、依然として何か不安なことやストレスを感じるとすぐに過去のことを思い出しては泣いて、情緒不安定になる。
今回もわざわざ自分が群馬に来た理由も、彼女が心配で仕方なかったからだ。
いくら地元だとはいえ、大学時代から仲が良かった人や仕事の同僚とも離れてしまったのだ。 思っていたより元気そうで安心したが、それでも心の傷は癒えていない。
「・・・・ったく、その度にお前の泣き顔見せられてる俺の気持ちにもなれっての」
「うる、さ・・・いッ」
渉の大きな手が亜季の頭を撫でる。その温かさと優しさにさらに涙が溢れ出た。
この大好きな安心する大きな手を一生失くすと思うだけで気を失いそうになる。 そんな大きな傷を彼女は背負っているのだ。
そう思うとさらに涙が溢れ出てきて、何度も拭う。 そんな亜季を見て渉も眉を下げたが、ふと昔のことが脳裏によみがえった。
懐かしくてふと笑みを浮かべると、それに気づいた亜季が眉間に皺を寄せる。
「人が真面目な話してるときに笑うってどういう・・・・!」
「いや、ふと昔のこと思い出してよ。お前と初めて会った時のこと」
今にも殴りかかろうと手をあげた亜季を静止するように渉がその手を握り言う。 それを聞いて亜季の脳裏にもふと昔の記憶がよみがえった。
「・・・・なんで今更そんな話・・・」
「お前と初めて出会った時もさ、そうやって泣いてたよなぁと思って」
「あー・・・・思い出したくもない最悪の日だったわ・・・」
「まぁまぁ。俺たちが出会えた記念すべき日じゃねぇか」
「そこは確かにそうだけど・・・人生終わったと思ったわ」
涙を拭いながらげんなりとした表情をする。
人生史上最低の日だといっても過言でもない日。
でも、私にとって、私たちにとっては忘れられもしない運命の日。
すべての始まりの日―――――
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