〇4th harmony



「わざわざ栃木までありがとうございます。遠かったですよね」

「そんな気にするな。俺が来たいって思っただけだし、栃木の有名チームの人と会えるなんて楽しみさ」

「ならよかったです」



子供みたいな笑みを浮かべた渉を見てこちらも自然と笑みがこぼれた。窓から流れ込む風が心地よく、窓の外の景色を見つめる。

元カレの車はうるさいし乗り心地悪いし、なによりどこに行くにもバトルばかりで楽しくなかったため乗るのが嫌いだった。

なのに、不思議と渉の車もうるさいしお世辞にも乗り心地が凄くいいとは言えないものだけど、楽しい。



「どうした?ひとりで笑って」

「あ、いや・・・私、車乗るの嫌いだったんですけど。渉さんの車は不思議と楽しいな〜と思って」

「へえ、嫌いだった原因はあいつか?」

「そうですね。楽しい思い出が何もなかったので」



思い出してイラついたのか渉が少し眉間にしわを寄せた。亜季もあの日の衝撃的な出来事がフラッシュバックして苦笑いする。



「もう過去のことです。気になさらないでください」

「ああ、そうだな。あれから何もされたりしてないか?」

「はい。なんかビックリするくらい何もないです」



本当に拍子抜けするくらい何もないというか、ここまで何もないとちょっとショックなくらい。
その程度の存在だったんだな、と最初のころは落ち込んでいたが、もうどうってことない。



「渉さんは栃木初めてですか?」


「渉」


「え?」

「さん付け慣れねぇんだ。敬語も使わなくていい」

「あ、はい・・・じゃなくて、うん。わかった」



まさかそんなこと言われると思ってなかったのでビックリしたが、「渉」と呼び捨てで試しに呼んでみたら「なんだ?」と嬉しそうに笑っていた。その笑顔に思わずドキッとする。

その途端、急に意識し始めてしまい顔が熱くなっていくのがわかった。

バレたらどうしよう、と焦っていたところで携帯が鳴る。見てみたら悠菜からだった。



『あ、亜季?今どこらへん?』

「もうすぐ着くと思う。もうついた?」

『うん、もう駐車場停めてるから。待ってるね!』

「はい、了解」



それだけいい電話と切った。電話越しでもわかるくらい楽しそうな声にまた思わず笑みがこぼれる。



「もう着いたって。なんかすごい楽しみにしてたよ」

「そうか。会ったときにガッカリされないかちょっと怖いな」

「大丈夫よ、渉なら」

「・・・ありがとう」



一瞬目を瞠り驚いた顔をしていたが、すぐに照れくさそうな顔をしてへらっと笑った。
それに釣られるように亜季も笑う。

“幸せな時間だな”とお互い心の中で思っていたことは、知る由もなかった。





―――――――――――






「はじめまして!中村悠菜っていいます!こっちは崇裕です」

「はじめまして」

「はじめまして、秋山渉だ。よろしく」



道の駅の駐車場に車を並べて停め、車から出たらすぐさま二人が駆け寄ってくる。
悠菜の想像を上回っていたのか渉を見て目を輝かせ、私の腕をとって少し離れたところまで引っ張った。


「すごいカッコイイじゃん!」

「ちょ、声デカい」

「もうなんで早くいってくれないのよー!」


テンションが上がりに上がっている悠菜にこっちは反比例して冷静になっていた。
チラリと渉の方をみると二人はさっそく車談義を始めているのでこちらの話し声は聞こえていないようだ。



「すごくいい人そうじゃん、よかったね」

「よかったねって・・・別に付き合ってるわけじゃないし」

「でも気になるんでしょ?」

「まぁ・・・」



気にならないっていったら嘘になるけど、正直あんなことがあってから誰かと付き合うことに疲れてしまっているのも事実。

渉といると(といってもまだ実際に会ったのは数回だが)楽しいし、電話で話すだけでも楽しい。ただ、裏切られてばかりきたのでなんか疲れてしまった。



「しばらく付き合うとか考えてないから・・・今はこの友達の楽しい時間が続けばいいなって思ってる」

「・・・そっか。でも!私は素敵な人だと思うよ!」



私の気持ちを察したのか一瞬悲しそうな顔をした悠菜だったが、すぐさま切り替えてまた目を輝かせていた。コロコロ変わる表情とわかりやすすぎることとにだんだん面白くなってきて無意識に笑いだす。



「もう!なんで笑うの!」

「いや、だって・・・はは、・・・・いい友達をもったな、って」

「!でしょー!」



私の言葉に一瞬驚いたが、すぐに照れてるような嬉しそうに笑って大げさに腰に手を当てていった。
それがまた面白くてまた笑いだす。



「なに二人だけで楽しそうな話してんだよ」

「なにって、崇裕だって渉さんと車の話してたじゃん。私わかんないもん」

「すげぇ勉強になるよ。ありがとう」

「いえいえ、こちらこそ周りに86乗りはいないのでおもしろいです!」



すっかり仲良くなってる二人を見て私も悠菜も嬉しくて笑みを浮かべた。
ほんと、二人とも子供みたい。



「今度是非バトルさせてくれ。ホームコースでいいし、なんならこっちのホームコースでもやろう」

「いいですね!絶対負けませんから」

「こちらこそ」

「はいはい、二人とも!お腹すいたからまずはご飯食べに行こ!」

「そうだね!行こう行こう!」





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