沢村は、隠れんぼがとても得意だ。
以前小湊と沢村との三人で隠れんぼをした時も沢村だけは最後まで見つからず、メールをして出て来てもらったのだ。沢村が隠れそうなところは探したのに、と首を傾げた僕に、何てったって俺は透明になれるんだぜ、なんて沢村が笑っていたのを覚えている。人間が透明になれるはずなんてないのに、沢村が言うとなんだか出来る気がしてくるから不思議だ。
けれど、そんな沢村を見つけられる人物が、ただ一人だけいる。それは倉持先輩だ。3年生が引退するより以前に、ベンチに入っているメンバーで隠れんぼをした時、またもや沢村だけが最後まで見つからなかった。鬼であったキャプテンさえお手上げで、何処にいるのかと全員で探している最中、倉持先輩が何でもないように沢村を連れて来たのだ。
何処に隠れていたとキャプテンが問えば、木の上だ、と倉持先輩がさらりと宣う。木の上。なるほど、それは盲点だった。一見危ないと思うけれど、自然に囲まれて暮らしてきた沢村ならば木登りくらい朝飯前なのだろう。
けれど同室の先輩である事を差し引いたって、倉持先輩は凄い。そのあと何回か隠れんぼをしたけれど、常に沢村を見つけるのは倉持先輩だ。毎回様々なところに隠れる沢村を、どうして見つけられるんだと聞かれると、倉持先輩は胸をはって、こう言うのだ。
『だって俺は、沢村の兄貴だからな』
もちろん血のつながりがあるわけではない。けれど確かに、沢村と倉持先輩は兄弟だった。それを疑い得ぬほどに、彼らの絆は強かった。
「だから時々、兄ちゃんって呼んじまいそうになるんだよな」
食堂では最も安いカレーを食べながら、沢村が言う。倉持先輩は本当に世話焼きで、取り分け沢村がお気に入りである。彼は倉持先輩の中でおそらく特別な存在なのであって、だからこそ兄弟だと言いきれるのだろう。羨ましくないと言ったら嘘になるけれど、こんなに素直ではなくて、けれど負けず嫌いな自分が他人とそこまでの関係を築けるとは到底思えない。けれど、なんだか。
「寂しい?降谷」
「……、」
きっと僕は、困ったような、嬉しいような、ふたつの気持ちがない交ぜになった表情をしていただろう。沢村はそんな僕を見て、平気だぞと笑った。まるでそれは太陽みたいだったから、なんだかあたたかくなる。
「俺とお前は親友だろ、な、だから寂しくねーぞ!俺はお前も大切だかんな!」
ああ、もう、なんて沢村はずるいんだろう。そんなことを言われたら、ついさっきまで抱いていた嫉妬やら寂しさが、すべて溶けていってしまう。沢村はやっぱりすごくて、だからあんなにもたくさんのひとに囲まれているのだ。
「沢村」
「なんだ?」
「僕のことは、君が一番最初に見つけてね」
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