卒業式といえば満開の桜のイメージがあるけれど、今年は例年よりも寒いせいか桜はまだ蕾のままで、梅の花ですら満開ではない。
「桜の舞う中で告白とか、めっちゃロマンあるのにな」
「…おめーには沢村がいるだろうが」
「ん?ああ…そうだな」
雪も降りそうな寒空の下、今日、俺たちは卒業する。


「おめでとう…ございます。御幸、先輩」
「へえ、お前も敬語使えたの」
「……まあ、………そりゃ、御幸…先輩も、今日卒業ですし」
せっかくなんで、と沢村が気まずそうに顔を逸らす。まったく沢村らしくない言動に、胸がざわめいた。
「…そうだ。御幸先輩、プロ入りおめでとうございます」
「…おー」
「埼玉行っても、ちゃんと、ご飯食べて下さいね」
「…お前じゃないんだから、ちゃんとするよ」
「…そう、ですよね」
沢村が、寂しそうに笑う。去年クリス先輩や哲さんや純さんやらが卒業するときには大泣きして、みんなに頭を撫でられていたのに。おかしい。俺との別れなど、惜しむべくもないというのだろうか。
「…先輩」
「なんだ」
「…プロ入りしたら、滅多に会えなくなりますね」
「そうだな」
「俺も、夏が終わったら受験生になるかもしれないし」
「…何が言いたいんだよ」
焦れた声で急かしたけれど、本当は分かっていた。沢村の言いたい事なんて、丸分かりだった。何年バッテリーを組んできたと思っている。
「…別れましょうよ、先輩」
もう全部覚悟したというような顔で言うから、沢村ではない人みたいだった。沢村はこんな、大人びた顔が出来るやつじゃない。
「…本気?」
「本気ですよ。滅多に会えなくなって、すれ違って、喧嘩するくらいなら…俺は、別れた方がいいと思うんです」
気丈にしているけれど、俺にはなんだか、泣きそうな沢村が見える気がした。
「…沢村」
「なんですか」
「俺はさ、遠距離恋愛でもいいと思ってるんだぜ。別に会えなくったって、俺は心だけでもお前に預けてやれると思ってるし、何より」
「…何より?」
「俺は、お前しかいらない。…お前以外、欲しくないんだよ」
「……み、ゆき」
沢村の目が見開かれる。その目にはもう、うすい水の膜が張っている気がした。
「俺は、残りの人生、お前にくれてやれる。お前はどうなんだよ。俺なんかにはやれないか?」
「…あんたは、ずるいよ」
「…沢村」
「俺が、違うって言えないの、分かり切ってる、くせに」
「…そうだな」
俺は、確かにずるい。純粋で真っ白かった沢村を引きずり落として、俺に染めたのは、紛れもなく俺自身だ。俺がいなかったらきっと、沢村は他の誰かを好きになっていて、真っ当な人生を歩めただろうに。かわいそうな沢村。でも、離してやる気なんて更々ない。こんなに可愛いやつを、手放せるわけが無い。
「…好きだ」
「うん」
知ってるよ。
「おれは、御幸のことしか考えられない」
「うん」
全部、お前のことは、全部、知っている。
「おれも、おれの残りの人生、ぜんぶ、御幸にやる」
「…うん」
ありがとう。
「だから…、さっきの言葉、無しな」
「当たり前」
お前の隣に、俺以外の誰かが立っているなんて、考えられないから。



end

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