※降沢前提です



「お前はどうしてそう、喧嘩っ早いんだ」
「…っせ。手ェ出してねんだからいいだろ」
青あざやら擦り傷やらで埋まっている倉持の顔を見て盛大に眉を顰めたら、拗ねられてしまった。まったく、扱いづらいことこの上ない。
「いい訳ねえだろ、体が資本のスポーツ選手だっつーこと、忘れんなよ」
「………かってる」
「お前はさ、言い出しの音くらいちゃんと発音しろよな」
分かるからいいけど、と言いながら消毒液を脱脂綿にたっぷりと浸して、頬にある傷をなぞる。良いだなんて思ってねえじゃねえか!と倉持が吠えた。分かるっているじゃないか。
「っつーかお前、機嫌悪いだろ」
「…確信を持ってるくせに、聞くんだ?性格悪いねお前」
「お前ほどじゃねーよ」
何故だとでも言うように倉持が視線で訴えてくるから、仕方なしに溜息をついて口を開いた。
「あのね。曲がりなりにもお前は俺の恋人だろ?」
「そうだな」
「その恋人がフルボッコにされて傷だらけで部屋にきて、手当してくれって言って、機嫌良くなるわきゃねーだろ」
「………悪い」
「悪いと思ってるなら、その挑発的な言動なんとかするんだな」
珍しくしおれた倉持の頬に、ばちりと盛大にガーゼを貼ってやる。痛いと文句が聞こえたが、無視した。
「でもさ」
「ん?」
「沢村じゃなくて、わざわざ俺のとこに来てくれた、っつーのは………嬉しくも…なかった」
「嬉しかねーのかよ」
「だって、お前、口ん中切っちまってるじゃん。それじゃキス出来ねーよ」
「馬鹿、掻き回すのは俺なんだからそんなの関係ねえだろ」
「掻き回すとか言うな、やらしいから」
やらしいのは倉持の専売特許であるとも思うけれど。そんなことを言ったら、彼はきっと調子に乗るだろうから御幸の胸に秘めておくことにする。
「でもさ、こんな傷だらけで戻ったら、沢村が黙っちゃいねーぞ」
「分かってるよ」
故郷から遠く離れた東京で寮暮らしをしている沢村にとって、同室の先輩である倉持はいわば兄のようなものなのだ。以前倉持が盛大な青あざや切り傷を作ってろくに手当てもせずに部屋に戻ったら、沢村はそれを見たとたん大粒の涙を溢して誰にやられたのかと問い詰めてきたという。後から倉持が理由を聞いてみれば、悔しいのと怒りとない交ぜになってしまって、どうしたらいいか分からなかったと言っていたらしい。
「だから、お前のとこに来たんだろ。一応手当しときゃーあんなに泣かれないだろうし」
びーびー泣かれるのは嫌だ、と倉持が苦い顔をする。もうすっかりお兄ちゃんが板についてしまっているなと感じて、少しだけ淋しくなった。
「お前、ほんと兄ちゃんみたいだなー。そんなんじゃ、降谷に沢村渡すの嫌だったろ」
「…まあな」
好敵手同士なあの2人がくっついたのは、奇しくも御幸たちがくっついたすぐ後だった。他人の動きに敏感な倉持はそのことにすぐ気がついたらしく、降谷を呼び出して「沢村を泣かしたらぶっ殺すからな」と睨みつけたと、降谷本人から聞いたことがある。
「…つか、お前、俺と2人きりなんだから俺の事だけ考えてろよ」
「あ、何、お前そんな気障な事言えたんだ」
「…ぶっ飛ばすぞ」
低い声でそう言われた後、顎に手を添えられて掠めるようなキスをされた。
「……好きだ、御幸」
「…知ってる」
倉持にしか見せないやわらかな微笑みを浮かべて、御幸は彼の首に腕を回した。
男同士の恋愛だ。そう続かない事はきちんと分かっている。それでも、
「俺が好きでいる限り、お前も俺の事好きでいろよ」
「そっちこそ」
今恋愛をしていられるなら、それで満たされるのだ。



end
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