倉持は、まるで犬みたいだ。
普段は沢村をパシリにしているくせに、俺が何か頼むと沢村には行かせずに自分で行ってくる。そしてコンビニのビニール袋をぶら下げて、褒めてくれと言わんばかりに笑うのだ。流石に頭を撫でたりはしないけれど、ありがとうとお礼は述べる。すると倉持は、それはそれは嬉しそうにはい!!と元気に返事をして、また沢村にフェイスロックだかをかけにいく。あれは照れてるんですよとにやついた顔で言っていたのは御幸だったか。全く、食えない後輩だとため息が出そうになる。同じクラスという利があるからなのか、御幸は倉持の事ならなんでも理解しているのでは、と何度思ったか知れない。
けれど、哲が言ったのだ。倉持が一番に懐いていて、一番好いているのは亮介だと。部全体をよく見ているキャプテンにそう言われたら、嬉しくないわけが無い。そう、とても嬉しかった。だから、勢い余って倉持に告白をしてみたのだ。そうしたら、倉持は目をまんまるに見開いて、それから顔をじわりじわりと赤く染めて、俺も好きです、なんて小さい声で返してくれた。いつも他の先輩には生意気な態度をとっている、すこし目つきの悪い後輩が、たまらなく可愛く見えて、思わず抱きしめたのは記憶に新しい。
それから苦節1ヶ月。あんな見た目をしているくせに、倉持は予想外に初心だ。手を繋ぐのは難なかったし、そもそも倉持から繋いでくれた。けれどキスは駄目らしい。そういう雰囲気になったことは山ほどあるけれど、一度として成功したことはなかった。
しかし、亮介も男だ。恋人とはキスをしたいに決まっている。
「倉持、ちょっとおいで」
「はい!!」
途端に目を輝かせて、ぱたぱたと駆け寄ってくる様すら愛らしくて仕方が無い。
「どうしたんですか、亮介さ…ん、」
ぐいと強く抱きしめて(身長差のせいもあって抱きついたみたいになってしまったけれど)、倉持の顔を両手で挟む。
「倉持、俺も流石に男だからさ」
もう待てないよ。
そう囁いてやってから、すこし上の位置にある唇を掠めた。触れるだけのキスだったというのに、倉持は耳まで赤く染めてしまっている。
倉持はまるで犬のようだ。
俺に逆らったりなんてしない。とても忠実で、そして。
可愛い可愛い俺の恋人。


忠犬ハチ公

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