じりじりと日差しが照りつけている。うるさく鳴く蝉の声を聞きながら、春市は前を歩く二人を見てため息をついた。例年よりも暑い夏になるとアナウンサーが言っていた通り、神奈川出身の春市でさえもきついくらい、今年の東京は暑い。避暑地として好まれる長野県出身の栄純や、北海道出身の降谷などは本当につらいに違いない。けれどそんなことは、体育会系の先輩の前では通らなかった。ちょっと外に出て暑さに慣れてこいなどと言って、伊佐敷先輩に渡された財布は小銭で膨らんでいて。なんだかんだ言って面倒見のいい先輩は、この暑さの中買い出しに行ってこいと言ったくせに、アイスを買ってきていいと春市にだけ耳うちした。みんなに聞こえる声で言ったら、その場の全員に奢らなければならなくなるからだろう。ただし、ハーゲンダッツはやめろよ、と伊佐敷先輩は言っていた。まったく、ぬかりない。
「ちょっと、二人とも。なんでいつの間に帽子脱いでるの」
「だってよー、汗でべたべたして気持ち悪ィじゃん!!な、降谷」
ふらふらしながらもゆっくり歩く降谷に栄純が同意を求めると、降谷はのろのろと頷いた。
「だからって、帽子をかぶらなかったら熱中症になるよ。体調くずして投げられなくてもいいの?」
「だ、ダメだ!!」
慌ててすぐさま帽子を被り直した投手二人を見て、単純だなあ、とわらう。バカみたいに投げることが好きな二人は、そのことを持ち出したらどんな事でも素直に聞く。嗚呼、御幸先輩の言う事まで素直に聞くかは分からないけれど。
「お、降谷、コンビニ!コンビニ見えたぞ!」
コンビニとはオアシスと同義なのだろうかと思わせるくらい、二人は嬉しそうに駆けて行く。帰りも同じ道のりを歩いて行かねばならないのだからすこしは体力を温存しておいたほうがいいと思うのだけれど、そんなこと、二人は聞かないだろう。
コンビニに着くと、降谷は飲み物のコーナーでメモに書いてあるものをひたすらカゴにいれていて、栄純はお菓子のコーナーにいた。ひとしきり選んだところで、二人を呼ぶ。
「どうしたんだよ、春っち」
「アイス、買っていいって言ってたんだ、伊佐敷先輩が」
ただし、ハーゲンダッツはダメだからね、と念を押すのを忘れない。
「ヒゲ先輩が!?ヤリぃ!!」
とたんに栄純はぱあっと花が咲いたように笑い、降谷も嬉しそうに笑っている。早速何にしようと二人で選んでいる様は微笑ましくて、嗚呼、この二人を可愛がりたくなる先輩たちの気持ちもちょっと分かるな、だなんて思ってしまった。
「なーなー春っち、春っちは何にする?」
「僕?…ガリガリくん、かなあ」
「控えめだな、春っち。俺はジャイアントコーンにする!!降谷は?」
「…ピノ」
「ピノ?」
「うん。…みんなで分けよう?」
いつもの無表情で、でもほんの少し楽しそうに降谷が言うものだから、栄純と春市はなんだかほっこりした気持ちになった。
「おういいぜ。…、でもさ、」
「なに?」
「なんで雪見大福といいパピコといい、二つにしか分けらんないんだろーな?」
三つで分けるやつがあったらいいのに。そう言って、栄純は頬を膨らませた。そんな仕草が、幼さの残る彼にはよく似合っていて、それでもってそんな彼のセリフを聞いた降谷は、さっきよりも嬉しそうな顔をしていた。
「まあ…、仕方ないよ。ほら、行こう」
ピノとガリガリくんとジャイアントコーンを一つずつカゴにいれて、レジに向かう。お菓子に飲み物にアイス、しめて2540円。伊佐敷先輩、すごい。
「なあ、アイス、どこで食うよ」
「そこの公園でいいんじゃないかなあ。丁度日陰もあるし」
「うしっ」
よっぽど機嫌がいいのか、ビニール袋を三つすべて持った栄純は一目散へと公園の、木陰にあるベンチへと駆けて行く。すこしひんやりしたベンチに腰を落ち着けてアイスを食べ始めると、ピノの箱を開けた降谷が、あ、と声をあげた。
「どうしたの?」
「…これ」
見てみれば、ハートの形のピノがみっつ。
「すごい…!!こんなに入ってるの、初めて見たよ」
「俺も。いいことあるんじゃねえの?」
御幸に褒めてもらえる、とか!!と栄純が弾んだ声で言う。意地が悪いなどと言いながらも、結局のところ栄純は御幸の事を気に入っているし、懐いてもいるのだ。御幸に褒めてもらえると聞いて降谷はほくほくと嬉しそうにハートのピノを見つめている。
「そうだ、写メ!写メ撮ろうぜ!」
ささっと栄純が携帯を取り出して、ピノを撮る。これまた嬉しそうに、今送るな、と栄純が笑った。
「これ、みんなで一つずつ食べよう」
「え、いいの?」
せっかくのハートのピノなのに。
「だって、幸せはみんなで分けたほうがいいでしょ」
さも当然だというように、降谷がハートのピノを摘まんで、二人の口に押し入れた。
「美味しい?」
「うん」
「おう、美味い。っし、降谷、俺のジャイアントコーンを一口やろう」
「…いいの」
「おう。ほら」
栄純の食べかけのジャイアントコーンをかじって、降谷はとても幸せそうな顔をした。
「美味いか?」
「うん、美味しい」
「ほら、春っち!春っちも一口いーぜ!」
「え?いいの?ありがとう」
そうしてそれぞれのアイスを食べさせ合いっこして、ほくほくした気持ちで帰路についた。相変わらず真夏の日差しが三人を焼いたけれど、行きのときよりもなんだか暑さは和らいでいる気がしてならなかった。




ハートの幸せ
(だって、幸せを分け合ったから)

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