デジャ・ヴ。
眩しいくらいの笑顔を見たとき、ちらりとそんな言葉が頭に浮かんだ。
「どうしたの、篠岡」
「…ううん。なんでもないよ」
にっこりと笑って、水谷くんの心配そうな顔を受け流す。脳裏に走ったフラッシュバックは今も網膜に焼き付いているけれど、よく見る水谷くんの笑顔にどうして既視感を覚えたのだろう。
「はい、篠岡」
「、え?」
「アイス、ひとくちあげる」
「え、そんなっ、悪いよ」
水谷くんが持っているのはハーゲンダッツのバニラ味。そんな高級なアイスはもらえない。否、安ければもらうとか、そういうことではないのだけれど。
「いいから。これでも食べて元気出してよ」
「…ありがとう」
彼は優しい。優しすぎる。阿部くんや泉くんのように、不要な感情を切り捨てるということが出来ない。それは彼の弱みであり強みでもある。もう少し自分を気にかけたなら、きっともっとみんなから愛される。けれど水谷くんは与えられる事には興味がないのか、愛を与えられる努力をしない。
どうしてだろう。
「…、」
ぼそりと何か呟かれた気がして、ふと視線を上にあげると、水谷くんがとても寂しそうな顔をしていた。それがなんだかとても切なくて、つらくて、苦しくて、胸がきゅうっと締め付けられたから、どうしたの、と限りなく優しい声で聞いた。
「ん、ああ、…なんでもないよ、篠岡」
「なら、いいんだけど…」
にこにこと笑う水谷くんは、かわいい。たとえそれが悲しみに濡れていても、きっと愛らしいに違いないのだ。けれど、彼女がいるという噂を聞いた事がない。あんまりにも色めいたことを聞かないものだから、そちらの気があるのではと噂されていたほどだ。
「しのおかー!!!救急箱!」
阿部くんの声が聞こえて、少しだけ体が強張った。とたんに水谷くんが心配そうな顔をする。大丈夫。大丈夫だから、お願いだから。そんな顔をしないで。

*

阿部の声に体が強張った篠岡を見て、胸がくるしくなった。
『どうして、そんな事を言うの?水谷くん』
目の前にいる女の子よりも数段年をとった彼女が、記憶の中で泣いている。彼女の夫である阿部は浮気をしていた。お節介だとは分かっていたのに、篠岡に告げたのだ。それを聞くと、彼女は綺麗な琥珀色の瞳をみるみるうちに濡らして、掠れた声で知っていると言った。
『そんなの、知ってる。知ってるのよ、水谷くん』
知っていても、知らないふりをしている、それでいい、と彼女はひくりと喘いで漏らした。阿部の帰ってくるところは自分のもとだから、それでいいと。
けれどそんな事は許せなかった。
学生の時から好きだった篠岡が、泣いているということが嫌だった。幸せでないということが許せなかった。
そして何より、
「どうしたの、阿部くん」
「ああ、三橋がな、ちょっと指切って」
彼の浮気相手は、
「大変、はやく手当しないと…消毒するね、三橋くん」
三橋はあんなに愛を与えられているというのに、どうして不安がるのだろう。あれほどあの偏屈な男に愛されているひとはいないのに、どうして気づけないのだろう。
でも、どうかこのまま、気づかないで欲しい。そうしたらきっと、篠岡は泣かなくて済むだろう。
『水谷くんは、しあわせ?』
「幸せだよ、篠岡」



You can redo.



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そうは見えなくともループものです!!!!!

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