A secret novel place | ナノ
秋から冬へ(4)

 昼食が終わって直ぐに虎徹はロイズに呼び出された。
呼び出されたのは虎徹だけだったのになんでかバーナビーもついて来た。
 こ、コイツ……。
廊下を行く間、そのままヒーロー事業部に帰る筈だったバーナビーが背後をついてくるのを知り、虎徹が唇を突き出しながら胡乱な目で何度もちらりと振り返る。バーナビーの方は久しぶりにこの可愛い虎徹の卑屈な背丸めを見たなと少し得した気分でついていったが、当然重役室に入ると呆気にとられたような顔のロイズにも面と向かって「なんでバーナビー君もついてくるの」と言われた。
「いえ、仕事の話なら僕も聞いておいた方がいいかと」
 今週この人と二人の撮影多いんです。出動あったら僕じゃないと調整しきれませんよというとロイズは溜息を吐いてまあいいでしょうと同席を認めてくれた。とはいえ、二人とも座る席はないが。
「ヘリペリデスファイナンスから虎徹君に御指名。折紙サイクロンと一緒にオリエンタルフェアの仕事に着いて頂戴」
「またですか」
 虎徹はあちゃーという顔になった。
「オリエンタルっていうと日本って事になってるシュテルンビルトもなんだかなって思いますけど、今度もあの日本式お化け屋敷風アトラクションみたいなものですか? あれ結構ずるいって折紙も俺もネットで叩かれてたじゃないですか。ヒーローが一番最初にアトラクションに乗る意味が判らんみたいな感じで。素直に芸能人をピックアップした方がいいと思いますけどね。後日本絡みのイベントに必ず俺を宛がう必要ないと思いますよ。俺日系人であって、日本人じゃないんです。日本の事なんかそれ程判ってないですし、下手すると折紙より知らない事があるのに」
折紙って白系ロシア人だっけ。白系は差別用語でしたっけ。とかなんとかぶつくさ言っている虎徹を横目で見てバーナビーは肩を竦めた。
「フェアって事は何週間かあるって事ですよね?」
 そうバーナビーが質問すると、準備期間は三週間程、日程は12月1日から7日迄の一週間だという。
「虎徹さんに何をさせるんですか? まさかコンパニオンとか?」
「あり得ますが、取り合えず向こうさんのいい様だと準備期間中に意見を聞く相手が欲しいという事みたいです」
「ん? てことは不定期の仕事? って事になりますかひょっとして?」
 そう虎徹が聞くのでロイズは頷いた。
「折紙君にほぼ任せたらしいんですけどね、その折紙サイクロンがワイルドタイガーを助手に欲しいみたいなことを言ったので回って来た仕事ですね」
「あー、そうか、うん」
 なんか判ったように虎徹は右手の親指でざりざりと髭を杓った。
「準備期間三週間ってことは来週からってことでいいですか」
「折紙君と連絡取って、そっちの進行を私に教えてくれる?」
 ロイズがそういうと虎徹は成程と返し、バーナビーは「それ僕にも進行教えてくれないとやっぱり困るじゃないですか」と文句を言ったがロイズは「だから今週の事じゃないし、来週の日程はそもそもバーナビー君のも虎徹君のも判らないから後である程度決まったら虎徹君から報告して貰おうと思ってたんです」と溜息を吐いた。
「なんにしても直ぐに折紙サイクロンと連絡を取って詳細聞いて。虎徹君が必要なところというか仕事で抜けなきゃならない日付けと時間さえわかれば調整は私とベンとでなんとかするから。判った? 後多分だけどお化け屋敷――アトラクションじゃないと思いますよ。今回はローランドで行うようですからね」
 ローランドというのはシュテルンビルトだけでなく本国(ステイツ)でも一、二を争う程の有名な百貨店で映画にも良く登場する。
シュテルンビルトにあるローランドビル本館も、当時まだ建設途中だったシルバーステージの最初のプラットフォーム上に建築されたという箔付けもあるのだが、本当の意味での貴重さは設立当時からあるというレンガ造りの弐番館をなんと解体してシュテルンビルトに移築したという経緯がある為だ。
 その為ローランドビル本館はシュテルンビルトでは珍しい歴史建造物として指定されており、しかもブランド等も手掛けている割りにハイエンド商品というより中・低価格帯の商品により力を入れて満遍なく取り揃えられているところからシュテルンビルトのどの層にも厚く支持され続けているのだ。
 歴史があり、かつハイエンドとローエンドを両方兼ね備える文句なしの超級百貨店である。
「そんなとこで行われるオリエンタルフェアに、虎徹さんをアドバイザーで突っ込んでどうにかなると思ってるんですか?」
 バーナビーは容赦なく突っ込んだ。
「思えませんけど、ヘリペリデスファイナンスが虎徹君を望んだら出さない訳には行かないでしょう。一応こんなのでもアポロンメディア代表のヒーローなんですし」
「虎徹さんかなり似非日本人ですよ。日本人からも苦情が来るんじゃないですか?」
「それらしいのは名前だけって前回のお化け屋敷の時も言われてましたしね」
「ロイズさんはどっちの味方なの?」
 酷い事を言われてる! と虎徹がロイズに文句を言うと、別になんの味方でもありませんよと冷たく言われた。
「折紙サイクロンが防波堤になってるとは言え、余りローランドに迷惑を掛けないようなアドバイスをして下さい。頼みましたよ」
「いやいやいやいや」
 出来る訳ないじゃん! 無理ですよ、ヒーローなんだと思ってんの。俺絶対折紙以下ですって。日本の事なんかさっぱり判らないのに!
虎徹は悲鳴を上げたがロイズはそれを黙殺。代わりに「そろそろOBCの仕事でしょ。早く行きなさい」と告げ、問答無用で二人とも重役室から追い出されてしまった。
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