A secret novel place | ナノ
彼は誰(3)



 知らなかったという言い訳はきかないとその時悟った。
ああ、知っていたとも。判ってた。数少ない減退例の全てがパワー型N.E.X.T.であるっていう恐ろしい事実を。知っていた。知っていたとも。
レジェンドがそうだったと聞いたときから漠然と判っていた。
人は興味津々とバーナビーを見ている。特にN.E.X.T.研究者たちがそれこそ固唾を呑んで見守っているのだ。
 バーナビー・ブルックスJrはいつ減退するのだろうかと。

思い出すのはベンと再びアポロンメディアに訪れ、減退について彼が斉藤に話したとき。
安定した現在の能力持続時間が1分だということを彼に告げ、ワイルドタイガーのスーツの調整を行っていた頃の話。
ベンは斉藤に、この珍しい減退という現象について自分の予想を告げた。
かつて減退したと言われる者の殆どが肉体強化系、所謂パワー型N.E.X.T.であったという事実を。その筆頭にレジェンドがいた。彼もまた、ハンドレットパワーの保持者だった・・・・・・。

――それはハンドレットパワーを持つ者の宿命なのかい?

斉藤がそう聞いた。その瞬間解ってしまった。斉藤が言っている真の意味を。知っていた。知っていて気づかぬふりをした。答えをはぐらかした。
ハンドレットパワーを持つ者は、いつか減退を起こす、その恐ろしい可能性に蓋をしたのだ。
そう、バーナビーにそれが訪れるタイムリミットは一体幾つなのだと、斉藤はそう聞きたかったのだ。

知っていて――、俺は――。

 虎徹は喉を虚空に晒して呻くように泣いた。
しっかりと縋りつくバーナビーに手を回して、自分も涙を流す。このとき初めて虎徹は思い知ったのだ。

バーナビーだって戦っていたのだ。ずっと虎徹よりも怖かっただろう。おいていかれる、先に死ぬのは俺だ。
レジェンドのように誰にも知られず一人死ぬのなら良かった。だけどもうそうはならないだろう自分を知っていた。うち捨てられて死ぬのが自分だけならいいと思っていた。
ずっと、ずっと。だけど、神様、俺はバーナビーにそうであってほしくなかったんです。だってまだ結果は出ていないのだから。
だから結果を見る前に逃げたかった。知りたくなかったんだ俺は。
 自分ならいい、一人でなら、いつでも逃げられた。
俺は――バーナビーと共に闘う道を恐れていたんだ。嫌だった、一人ならまだ耐えられた。でもずっとバディでやっていて、バーナビーが減退したら? その時俺はバーナビーの傍にいてやれるのか。年齢的に考えてみろ、俺にはバーナビーがいてくれる。一緒にやっていける。でもバーナビーが減退する時俺は一体幾つなんだ? だってバニーそれじゃお前、俺を失った時お前はどうなるんだ、どうなるんだよ。


「バニー、バニー・・・・・・、ごめん、ごめん・・・・・・」
「謝らないで、逃げないで。僕だって言いたくなかった。虎徹さんが、だって離れようとするなんて思わなかった――傲慢でした。だから謝らないで」
「だけど、バニー俺・・・・・・!」
「貴方のしたことは何も知らないライアンに僕の未来も貴方の恐怖も全部押し付けたってことなんです。そして貴方自身は逃げ出して。これが惨くなくて何が惨いんです。貴方は――僕を――、見捨てようとしたんだ」
「違う、バニー、違う・・・・・・」
「違わない! もう言い訳しないで。それはもういい。許します。だからどうか傍に、傍に居てください。お願いします。傍にいて。世界中で今たった一人虎徹さんにだけしか出来ない。僕を本当の意味で支えることが出来るのは貴方だけなんです。誰にも代替なんか出来ない。貴方は僕を重いと思う。僕をきっと厭う。僕が貴方を観続けることが恐怖であったように貴方にとって僕は恐怖の対象だったと知ってました。でも僕はそれを見ない振りし続けていたんです。貴方と同じように僕も卑怯だ。でも金輪際それをやめます。だからどうか臆病な僕を許して下さい。情けないと罵ってくれて構わない。惨めで浅ましいと思ってくれて構わない。だけど、虎徹さん、僕は貴方ほど強くない。もし僕が減退したら――僕はきっともうヒーローなんか出来ない。それどころかきっと生きていることすら辛くなる。傍に居てください、怖い――怖いんです。どうか、一人にしないで。どうか――」
 うん、うん。

どうしたらいい? どうしていいか判らない。だけど、だけど――!
「・・・・・・俺も傍にいたいよ、バニー、お前の傍に居たい・・・・・・だけど俺――」
 いいんです、解ってます、解ってるんです。それでもただ、手を、今はまだ手を離さないで――、どうか。

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