春から夏へ(6) トレーニングセンターでいつものメニューをこなし、その後アントニオに捕まった。 そのままいきつけの店に連れ込まれ何故か説教を食らう。 「お前ら、どうなってんだよ」 「どうなってるとは?」 あ、俺焼酎お湯割りで。 虎徹がそう注文し、バーテンダーが一つ頷く。ここはアントニオと虎徹がヒーローだということを知っている店で、このようなヒーロー行きつけの店がシュテルンビルトには数件あるのだ。大抵の市民は黙認してくれるがその中でも会員制とは言わずとも一見さんが入りにくいこのバーを虎徹とアントニオは良く愛用していた。 「酷くなってんぞ、一度引退した時以上だ。二部んときからお前ら噂になってたんだからな」 気をつけろとアントニオは言う。何を気をつけろっていうんだと虎徹は口の中で文句を言った。 「別にいいだろ、ヒーローのプライベートなんか」 大有りだとアントニオは喚いた。 「スカイハイと折紙も薄々気づいてる。スカイハイは――まああれだが」 虎徹はくすっと笑った。 「折紙は別に・・・・・・、そこまで詮索好きなヤツじゃないだろ」 「お前完全に失念してると思うけどな、バーナビーはヤツの後輩なんだぞ」 「え、何? 折紙もバニーが好きとか?」 違うわ! アントニオが酒を吹きだして咳き込んだ。 「いいか、絶対にキッドとブルーローズにはわからんようにしてくれよ? 折角元鞘――じゃなくて元の俺らの関係に戻ったんだ。暫くは大人しくしててくれ」 「俺何もしてないじゃん」 してるわ! とアントニオが悲鳴のような声でいう。 暫くの沈黙。 「しかしあの、バーナビーのヤツ・・・・・・なんか凄く変わったな?」 それは女子組の二人も認めるところ――勿論俺もという。 「そんなに変わった?」 「ああ、うん。とてもな、なんていうかお前に――影響されてるなと思うよ」 そうかと虎徹が笑う。 「どうやったんだ、あんな堅物」といいかけてアントニオがはっとしたような顔に。 虎徹はその表情を見て面白そうに焼酎を一口飲んだ。 「聞きたい?」 「聞きたくない」 アントニオが首を振るう。その様子に目を細め。 「ん。なんかまあ色々?」 「俺は聞かないからな」 生々しい話は聞きたくない。ついでに言うと一応お前の親友で俺は! 友恵さんのことを知っているだけに彼女に申し訳が立たないんだと言った。 「なんでお前が友恵に申し訳立てちゃうの」 「ああ? 卒業する時に約束したんだよ。まあ一種の罪滅ぼしってやつだが」 「なんの」 「友恵さんに迷惑かけた件についてだよ。てめー呼び出すのに使っただろ」 「つかおめーも最低だな」 「今更なのか。畜生め」 「まー、今に始まったことじゃないからな」 虎徹がまあねえと頬杖をつく。 「嫌だからな、あの世に行ってまで友恵さんに言い訳すんの」 「お願い、よろしく」 「嫌だからな!」 「んー」 「絶対に嫌だからな! 浮ついた事をしないように、お前が行き詰らないように相談相手になってくれ、見ててやってくれって頼まれてたけど、俺は絶対報告しないからな」 「別に浮気したわけじゃないんだし」 「浮気の方がまだましだ!」 アントニオは喚いた。 虎徹の襟首を掴むと顔を寄せ、声を極限まで潜めて彼は言う。 「てめーもゼッテーやめろよ。ただでさえかなり疑惑の状態なんだ。バーナビーにも良く言い含めて置けよ?! アイツ自覚ないだろうが、かなり顔にでてんぞ」 「そなの?」 「てめーもなんだよ!」 このバカバディが! シュテルンビルト市民の疑惑は今かなり臨界点だぞ。ある朝から突然バカップルって呼ばれるようになっても俺は驚きゃしねえけどな。 「一緒にされたら迷惑なんだよ。俺は関係ないからな!」 虎徹ははたと気づいた。 「ははーん、さてはファイヤーエンブレムと」 「だからそこなんだよ! 俺は関係ないからな!」 はいはいと虎徹は自分の首を今にも絞めそうな顔をしているアントニオの腕を外すと、焼酎を一口飲んでカウンターにため息をついた。 「なーんだ保身でやんの」 「保身で悪いかっ」 暫く無言でちびちびと酒を飲む二人。 静かなジャズ曲、聴いたことがあるが曲名が思い出せない。なんだったかなあ、昔何かのCMでも採用されてたやつ。 そんな事を考えながらメロディーに耳を傾けていたが、不意にアントニオがこう言った。 「で、どうやってるんだよ」 「・・・・・・」 虎徹は焼酎をもう一口舐める。 「お前、結局聞いちゃうの・・・・・・」 悪いかよ。 アントニオがぼそぼそと呟いた。 [mokuji] [しおりを挟む] |