バンパイヤ | ナノ
バンパイヤ 12.不幸なる人にとりて憎悪に満つ(4)



 斉藤はシルバーステージの自宅に久しぶりに戻っていた。
虎徹が戻ってくるのではないかと実は密かに期待して1週間近くメカニックルームに泊まりこんでしまったが、さすがに一度戻らないと着替えやなにやらが全滅だ。
自宅の方も気になるし、アポロンメディアの宿直室は割合豪華だがゆっくりと風呂に浸かりたい。 それと、定期連絡も――――。
自宅に戻って直ぐに風呂に入り人心地ついたあと、斉藤は適当に食事を済ませてすぐにパソコンに向かった。
斉藤には一つの予測があった。
それが間違っていなければ、現シュテルンビルトはすでにウロボロスに掌握されつつある。
消された12人の人物詳細を洗い、更に失踪した全ての人のファイルを手に入れると斉藤はそこに一つの法則を見出した。
「やっぱり、ウロボロスっていうのは・・・・・・」
 その時、真っ暗な自宅マンションの中がたんという物音が響いた。
その音が意外に大きかったので斉藤はきょろきょろと周りを見渡す。 上の住人が家族住まいなので良く幼い息子が椅子を突き倒したやらベッドから飛び降りたやらでたまに謝罪があった。 最初はまたそれかなと思ったが、まさかこんな深夜にそれはあるまいと思いなおし、ベランダに目を向けて驚いた。
「サイトーさん・・・」
 暗がりから伸びる手が、斉藤の自宅、ベランダの戸を掻いた。
斉藤はびくりと身体を震わせたがパソコンデスク前から立ち上がる。 そしてその鋭く爪の伸びた半獣の掌を見て察し、虎徹のもとへと駆け寄った。
「タイガー!」
「サイトーさん・・・、俺、・・・」
 虎徹は開錠して貰ったのと同時に戸を開けて、その場にずるずると崩れ落ちる。
斉藤は躊躇わずに立膝をつくと、その身体を抱え込んだ。
ボロボロだ。 酷い、酷い怪我をしている。 斉藤は息を飲んだ。
虎徹はバーナビーが特注した上等のスーツを着ていたが、それがもうボロボロになっていた。
体中に散らばる傷が痛々しい。 半獣化していたが身体に体毛が無かったせいか、深い刺し傷が幾つもあってそれが殆ど治りきっていなかった。
高い再生能力を持つのにこれはどうしたことかと斉藤が聞くと、月の状態に左右されるから下弦の月以降から急激に再生能力が衰えて新月には殆どヒトと変わらない代謝になってしまうと告白。 しかし斉藤は首を横に振り、では君はバーナビーを本当にパートナーにしたんだろうと言った。
「なんでそう思う・・・」
「君が急激にヒトに近づいているからだよ。 しかしタイガー、よく僕の自宅が判ったな! 何があった」
「俺が、怖くないんスか・・・」
「怖くなんかないとも。 大丈夫か! この傷は何でやられたんだ?」
「ん、フツーにバタフライナイフ。 アイツヒト型でも強ぇんだ・・・。 後のは他のやつらにやられた。 あいつら種族決まってねぇんだもん、ふざけてやがる」
「ウロボロス・・・なのか。 じゃあウロボロスっていうのは・・・」
「やっぱサイトーさん、最初から知ってたんスね・・・。 何時から気づいてたんスか?」
「予想したのは国の特務機関で、警告したのはブルックス夫妻だ」
 虎徹は自虐的な笑みを浮かべた。
「はは・・・、なーんだ、・・・・・・俺、やっぱバカだなあ・・・」
「おいっ、タイガーしっかりしろ! 今手当てしてやる、これぐらいじゃ君死なないだろう?」
 虎徹は床に身体を横たえて、ほろほろと涙を零した。
「俺、バニーが、・・・・・・好きだ・・・、でも俺、は」
「タイガー!」
「さ、イトーさん、これ・・・、ロトワング教授が貴方に渡せって。 あいつ等しつっこくてさ・・・、中々サイトーさんとこ行けなくて参ったよ」
 虎徹は右手に持っていた筒を斉藤に渡す。 それからまた身体を掻いてなんとか立ち上がろうとした。
「すんません、ホントに・・・、迷惑かかるから俺、もう行かなくちゃ・・・」
「何言ってるんだ! 大丈夫だなんとかする。 いいからちょっと休め」
「でも・・・・・・」
 ああでもヤバイ、急速に瞼が落ちてきて目の前が暗くなる。
すみません、サイトーさん、少しだけ休ませて下さい。 少しだけ・・・。



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