バンパイヤ | ナノ
バンパイヤ 10.口と心と行いと生き様もて(4)



 あかいめがぼくをみている。
ひとつはおとうさんそっくりで、もうひとつはぼくそっくり。
めだけちがう。



 そこでバーナビーの記憶は途切れてしまう。
気付くと病院で、サマンサがバーナビーの小さな手を握って号泣していた。
傍らにマーベリックも居て、周りにいる人たちに何事かを叫んでいた。
「ぼっちゃま、どうしてあんな無茶を」
「お父さんとお母さんは?」
 その問いに更に涙を流して。
「ぼっちゃまだけでも助かって良かった」
 マーベリックが廊下に向かって何事かを言う。
「犯人を捜せ、手を尽くして必ず捕まえるんだ!」
 そうして幾日か経って、両親の死を聞かされて少しショックが薄らいで、サマンサとマーベリック、それと医師と警察から訪れた刑事にバーナビーはこう言った。
「僕は犯人を見ました。 大きい男の人と、小さな男の子です。 一人はお父さんそっくりで、もう一人は僕にそっくりだった。 でも一つだけ違うところがあります。 目が真っ赤だったんです」
 サマンサはそれは夢なのよと泣いた。
マーベリックも難しい顔をしていたが、首を横に振る。
刑事も念のため調書を取ってくれたが、それはそのままとなった。
バーナビーは医師にカウンセリングを受けて、医師もまたそれはバーナビーの見た夢なのだろうと結論付けた。
バーナビー自身も、いつしかそれは自分が観た夢だったのだろうと思うようになった。 何故なら自分そっくりの男の子が犯人だとは到底思えなかったからだ。
恐ろしい力で首を絞められたのだよという。
仮にNEXTであったとしても、ハンドレットパワーでもなければ無理だ。 そして同一の能力を持つものは非常に少ない。
 ありえないのだ。
そんなことありえない。 あんな小さな男の子が、大人を絞殺するなんて無理だ。
そしてもう一人いた、大きな男の人、お父さんとそっくりだと思ったそれが、真犯人なのかと思った。
でも多分夢なのだろう。 いつしかバーナビーはそのことを忘れた。

「当時の記録から不思議な証言があるのを知ってる?」
 斉藤の声が遠くから聞こえてくる。
「夫妻は結構君を連れて研究所に来てたよね。 当時同じ所員で同じような年頃の子供を持っている人がまあ数名いたのは確認済みなんだけど、バーナビーの他にもう一人子供が良く所内にいたっていう証言があるんだよ。 バーナビー、君と殆ど同じ背格好で歳も同じぐらいだっていうわけだ。 単に君を見てそう思った人もいるんだろうけど、どうも違う気がするんだ。 この子供、実在したんじゃないかな。 多分他のNEXTで、夫妻の研究対象として」
「子供、居たんですか・・・」
「資料が焼けて残ってないから、僕の推察だけどね」
「でも、子供の力じゃ・・・」
「その子が夫妻を殺したとは僕も思ってないよ。 そうじゃなくてこの子に聞いたら結構詳細が判るんじゃないかなって気がするんだよ。 一連の事件のキーなんじゃないかって」
「斉藤さんは、僕の両親が殺された事件と、今回のロトワング教授殺害事件及びヘルシャー失踪事件が関連してるって言いたいんですか?」
「そう」
「ありえない。 20年ですよ?」
 バーナビーは首を振る。
しかし斉藤は言った。
「むしろ、20年経って動き出したんじゃないのか?」
「でも、何を。 何がきっかけで?」
「タイガー」
バーナビーは斉藤を見る。
「タイガーが来たからだよ」
「虎徹さん・・・」
 タイガーを見つけなきゃね。
斉藤がそう呟き、くるりと椅子を返した。
バーナビーは斉藤がキーボードを打つ手をぼんやりと見続けていた。



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