バンパイヤ 6.犠牲(2) 「近頃新しい友人が出来たと報告を受けたけれど、上手くやっているのかな」 「・・・・・・」 パーティーを主催していたシュテルンビルトホール、その最上階はワンフロアすべてアポロンメディアの借り上げだ。 ブルーローズの新曲発表には、シュテルンビルトのメディアを一手に手がけるアポロンメディアも出資しているので、正確には二社合同企画ということになるのかも知れない。 そこら辺の仕組みをバーナビーは良く知らなかった。 なんにしても、シュテルンビルトのヘルシャーは、七大企業のいずれかに所属しているので、ある意味全体が親戚のようなものとも言えた。 「一度話してみたいね。 勿論バーナビー、君も一緒に」 バーナビーは真っ直ぐにマーベリックを見る。 マーベリックは、柔和な笑みを浮かべていて、何か飲むかね?と聞いてきた。 「いえ、その友人を待たせてるので、特に用事がないようなら帰ります」 ロトワングと接触させるための時間稼ぎなのだろうと、バーナビーは疑っていた。 最初にロトワングが接触してきた時も、特に用事もないのにマーベリックに呼び出されていたことが思い起こされる。 単なる偶然とはもうバーナビーにはどうしても思えなくなっていたのだ。 「シルバーステージに居住を移したいといっていた、その申請が降りた。 用件はそれだけなんだけどね」 「えっ?」 マーベリックは困ったように笑った。 「いや、かなり前々から申請を出していたから、どうしても移りたいのかと思ってね、私のほうからも申請を出してみたんだよ」 用件の意外性に、バーナビーは一瞬返答に詰る。 「ありがとうございます。 その」 「私が反対すると思っていたのだろう?」 そうですね、とバーナビーが素直に答え、マーベリックはまた笑う。 「実際反対してたんだけどね。 君も成人したことだし、君の自由意志に任すべきだと、諌められたのもあるんだよ。 ヘリオスエナジーの新オーナーは割合キツイね」 ネイサンか。 バーナビーは苦笑した。 「ありがとうございます。 でも今は友人が居候してますし、引越ししようとは考えてません」 「いつでも構わないよ。 それとその鏑木君といったかな? うちのメカニックの親戚だそうだね。 もしシュテルンビルトに移住するようなら改めて紹介してくれ。 時間は都合する」 「判りました」 マーベリックはバーナビーを開放した。 ロトワング教授の話もしない。 ああ、判らない、くそ。 階下に降りて、急いで元の場所へと向かう。虎徹はまだそこに居てくれた。 「虎徹さん」 呼ぶと、顔をあげて、なんだか胸が痛くなるような笑みを自分に向けてくる。 手持ち無沙汰そうに階段の手すりに背を持たれかけさせてまっていた虎徹は、バーナビーが来ると何故かするりと身を寄せてきた。 「あの、ロトワング教授は・・・」 「来なかったよ」 「今日は現れなかったんですか?」 「うん」 「? なにかありました?」 バーナビーが聞く。 何もない、なんでもない。 なあ、バニー帰ろう。 家に帰ろう。 疲れちゃいましたか? そうバーナビーが聞くと、こくんと頷いた。 その様子が本当になんだか具合悪そうで、バーナビーは少し慌ててしまう。 肩にもたれかかる虎徹が甘えたように鼻を鳴らしてきて、バーナビーは直ぐにタクシーを捕まえると一路自宅へと帰った。 その日、虎徹は食欲もないようで、早々にベッドに潜り込む。 それから、虎徹は瞳でバーナビーを呼んだ。 「傍に居てくれ、一緒に眠ってくれ、なにもしない。 悪戯もしないで寝るだけだから」 ふうとバーナビーはため息をつく。 「どうしたんですか、なんだか弱気になっちゃって」 「・・・・・・」 またあの笑顔だとバーナビーは思う。 でもその笑顔はとても優しくて、バーナビーをとても愛しそうに見ているものだから、バーナビーも笑顔で横になった。 愛しい者を抱きしめて眠ろう。 ささやかなこの安息を守るために。 眠りに入る直前、バーナビーの脳裏を満たしたのは、タイトルの判らないその歌だった。 [mokuji] [しおりを挟む] Site Top ←back |