バンパイヤ | ナノ
バンパイヤ 5.燕の子(2)



 ヒーローの仕事は割合地味で、平和な小国家シュテルンビルトにおいてはそれ程出動要請があるわけではない。
いざと言うときの保険みたいなものなんだろうと、キースも良く言っていた。
NEXTの比率がとても高い国なので、NEXT犯罪などに対応する為にも在るものなのだろうが、基本シュテルンビルトにおいてNEXTは完全登録制だ。普通人に対してよりも制約も多いが特権も多く、NEXTによる犯罪は非常に稀であるとも言えた。
ウロボロスというのはNEXTの犯罪集団だと言われているが、実体は不明のままで存在意義も良く判らない。 ただ、バーナビーの両親のように不可解な死を遂げるもの、事件に巻き込まれる者が居る事は確かで、ウロボロスは存在しているのだということだけは周知の事実だった。
いつか、それと対峙する為に、ヒーローシステムは作られたのだろうかとバーナビーなどは思う。
今となっては、父と母が何を計画し、何を理想とし、このシュテルンビルトに何を築きたかったのか解らない。
しかし、けして間違ってはいなかったのだろうと、バーナビーは思っていた。
マーベリック氏はそんなバーナビーの両親の親友でもあり、最大の理解者であると言われていた。 実際バーナビーはマーベリックに引き取られ何不自由なく生活してきた。 中学からは全寮制になったので、年に数回マーベリックの館に帰省するぐらいだったが、それでも、あの頃はまだ、彼は正常だった気がするのだ。
何時からだろう? 彼が変ったと感じ始めたのは。
「バーナビー君、大丈夫かい? 心ここに在らずといった感じだよ」
 内臓マイクでそういわれて、バーナビーははっとなった。
そう、今はヒーロー活動中だった。
また野生動物の侵入があったので、キースが上空から、バーナビーが地上からの探索を行っていたわけだが見つからない。壊れたフェンスを発見して、バーナビーはキースに連絡した。
「修理屋を寄越してください。 警察には僕から連絡しておきます」
「通報では、なにか巨大なものっていうことだったけれど」
「どうでしょうか。警戒は怠らないことにして切り上げていいかと思いますけど」
「ここのところ多いな。 被害はないんだが、その・・・侵入の通報が」
 キースとの通信を終えて切ると同時に、バーナビーは背後に気配を感じて振り返った。
金色の瞳が、まっすぐにバーナビーを見ている。
それは優しくビルの上で微笑んでいて、バーナビーが自分を振り返ったとみるやいなや音もなく地上へと飛び降りてきた。
銀黒のぴんと立った耳、柔らかそうな尾がふさりと地面をかする。金色の瞳が暗闇の中にきらりと光った。
「家に居てくださいって言ったのに」
「退屈だったし、バニーの仕事っぷりを見たかったんだよ」
「ホントに注意してくださいよ」
「すげえ裂け目。 フェンスぶちやぶって入ってきたの?」
「どうでしょう。 人為的なものかも知れません」
 なんで?と虎徹が聞いた。
愉快犯というか、まあ意味もなくこういった破壊行為を行うヒトもいるんですよとバーナビーは答える。
ふーん、と言いながらそのフェンスに近づき、虎徹はぴたりと足を止めた。
「どうしたんです?」
虎徹がフェンスに向かって険しい表情をしていた。
「虎徹さん? なにか気になる事でも? そのフェンスに何か?」
「嫌な匂いだ」
 虎徹は呻くように言った。
それからバーナビーの手をひいて、つまんないから家に帰ろうと呟く。
「待ってください、一度アポロンメディアに帰らないと」
 ヒーロースーツを脱がないとこのまま自宅に帰れませんと言うと、虎徹は鼻を鳴らした。

 ロトワング教授の接触があってから、1週間が経過していた。
あの日以来、虎徹とバーナビーに何度かロトワングからのコンタクトがあったが、バーナビーは自分もその実験とやらに同行できない限りは許可できないと突っぱねている。
「気をつけて、何処で見られてるかも判りません」
「半獣化、この姿なら別に構わないと思うんだけど」
 それでも、見られないに越した事ないじゃないですかとバーナビーは言って、立ち去りかけた時に足元で何か小突いたと思った。
「雛鳥だ。 燕、かな?」
 バーナビーはそれをそっと拾い上げて、上を向く。
先ほど虎徹が飛び降りてきたビルの、エントランス街頭に、燕の巣があるのをみつける。位置からしてここから転げ落ちてきたのだろう。
「何時から落ちてたのかな」
「燕・・・」
 虎徹が小さく呟く。
そしてバーナビーの手の中の燕の雛を暫く見つめていたが、それ、巣に戻す気なのか?と聞いた。
「勿論です」
 バーナビーは軽く言って、巣の下へいくと、屈んでジャンプした。
そっと燕を巣の中に戻してやると、微かな鳴き声が聞こえてきてやがて消える。
虎徹はそれをじっと見つめていたが、何も言わなかった。



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