バンパイヤ | ナノ
バンパイヤ 2.ヒトであるように(3)



 その後逡巡したバーナビーは、アポロンメディアで自分のヒーロー業務のサポートを行っている斉藤に思い当たった。
自分の現時点協力者でもあり、ある目的を持った仲間の一人だ。
そして彼は虎徹と同じく、日本出身だった筈である。
無茶は承知でヒト型になった虎徹を伴い、斉藤氏の下に訪れ、事情を話した。
最初は面食らっていた斉藤だったが、バーナビーの危惧するところの予想を話すと、渋々ながら了承してくれ、虎徹と引き合わせた後は彼の屈託の無さと、妙に純粋なところと日本という同郷の好もあってか、気づくとバーナビー以上に打ち解けた間柄になっていた。
 虎徹曰く、斉藤にはなにかとても安心するようなところがあるのだそうだ。
匂いがいいと言っていたが、それが何を意味するのかは、所詮唯の人間でしかないバーナビーには判らない。
結局のところ、斉藤は虎徹の身元引受人兼、バーナビーの共犯者となってくれた。
 極東圏日本の事など、シュテルンビルトの人間は殆ど知りようが無い。 殆どファンタジーのような島国の話でもあったので、同じ日本独自のシステムを知っている虎徹にしても都合が良かった。
 斉藤の遠縁ということにして、仮の戸籍を作成。
東洋街に親戚縁者がいるということを備考として、シュテルンビルトへの入国登録をすることにした。
現時点は観光ビザを使用していると言う事にし、NEXTに関しては、強化系NEXTとして一応届出を出しておく。
テストに関しては、観光ビザということで拒否をつっとおす事にした。
 虎徹は余りにも獣に傾倒しすぎていて、このシュテルンビルトで生活するのには酷く不都合があったからだ。
狼でいた時間が長すぎたんだと虎徹は言うが、バーナビーはそれだけではなく、もともとこの男は、ヒトとしてはだらしなく、突拍子も無い性格なのだということを見抜いていた。
 自分がリーダーだというのなら。
自分が保護者であり、これの飼い主であるというのなら、これを、連れ歩いて少なくとも不審に思われないぐらいには、ヒトとして仕込まなければ!

 ということで、その後は虎徹にとってある意味拷問の日々が始まった。

一刻も早くということで、バーナビー自体が急いていたのもあったわけだが、歩き方、テーブルマナー、社交界での受け答えなど等、覚えるさせることが大量にありすぎて、虎徹は途中何度も半獣化して逃亡を企てたが、その度にバーナビーのハンドレットパワーの前に敗北。
 泣きながら、それらを取得する事になった。
2週間の猛特訓後、虎徹はなんとか 人としての歩き方をマスターし、人としてのある程度の受け答えをマスターし、ある程度のシュテルンビルト社交界における一般常識をマスターした。
まだまだ全然足りないとバーナビーは思っていたが、途中で余りのスパルタ内容に、虎徹を哀れに思った斉藤の横槍が入って一応終了ということになった。
「何か判らないことがあったら、とにかく口を噤んでください。 あとは曖昧に笑っていればいいです。 僕がフォローしますから」
 その日は斉藤のメカニックルームで、虎徹に歩き方を指導していたが、虎徹は見学していた斉藤の後ろに四つんばいになって逃げだしてしまい、きゅーんきゅーんと降参の鼻息を鳴らしていた。 今日はもう結構です、の意だ。
「可愛くしても駄目ですよ! 明日はマーベリックさんに貴方を紹介して、僕との同居を公認させないといけないんですから!」
「バーナビー、タイガーにそんな高度な要求をしても、無理だよ」
 近頃斉藤は、虎徹の事を漢字からとって、タイガーという渾名で呼ぶようになっていた。
「充分僕は頑張ってると思うけどな。 僕もさ、一緒に行くし、僕の遠縁だって説明するから、別にタイガーがヘルシャーと会話する必要はないと思うんだけど」
「でも質問されたら困るじゃないですか! 大体、なんで貴方ヒトの形をしててもすぐに手を床につこうとするんです!」
 この2週間、互いにとってそれはもう見るも涙、語るも涙の猛特訓だったのだ。
虎徹はどうも狼でいる方が気持ち的にも身体的にも楽な用で、ヒト型になって暫くすると、どうしても四つんばいになりたがるのか、「ここに手をついてもいいかな・・・」的な前かがみの姿勢になってしまうのだ。
 それが非常に挙動不審で、バーナビーに痛く不評。
真っ直ぐに背を伸ばせ、手はお膝! などと幼稚園児のような指導を食らいまくった上に、更なる問題は獣の特徴として、くるくると興味も気持ちも変るらしく、テーブルの上にあるリラックスグッズに気をとられ、ボールペンを噛み砕き、文鎮を自分の足の上に落とし、更には立体テレビに飛びついたりとやることなすこと何処の原始人なんだ!的な失敗を大量にやらかしてくれたおかげで、散々っぱら怒られまくってしまったのだった。
 これには虎徹の中の獣の部分も、相当ショックだったらしく、バーナビーを見ると反射的に背を丸めてしまうぐらい怯えるようになってしまった。
斉藤などは、これって結構面白いよねーと楽観的に茶化していたわけだが、バーナビーにしてみたらたまったものではない。
「時間がないのに、どうして貴方達はそう能天気なんですか!」と斉藤共々怒られたのは二度や三度ではなく、実際バーナビー自身も疲れ果ててしまった。
「一応、及第点ですからね! 虎徹さん、貴方自身の事でもあるんですよ? また腕に穴開けられて、鎖に繋がれたいんですか!」
「判ってるよ、判ってる。 そんなにまくしたてないでくれよ。 聞こえてるから。 バニーちゃん怖いんだよ」
「バニーじゃありません! バーナビーですっ」
 バーナビーは頭を掻き毟った。
「誰の為にこんな!」
「まあまあ」
 斉藤が割って入って、虎徹がその後ろにそそっと隠れる。
むっとしたバーナビーが、追いかけようとしたのを斉藤が制し、今日登録出しといたから、と言った。
「国民登録、ですか?」
「いや、長期滞在の方で。 後々問題が起こらないように、NEXTの届出もだしておいたから」
「それは」
「強化系NEXT、ってことにしてる。 半獣化するっていうのを特筆事項に回しておいたけど、ロトワング教授が目をつけないわけがないだろうね」
 バーナビーはため息をついた。
「完全獣化NEXTだってばれたらどうなるのか・・・」
「気をつけておくけれど、バーナビー、君」
「・・・・・・」
 虎徹がひょこっと顔を出した。
「何の話?」
 バーナビーと斉藤が曖昧な笑み。
それに小首を傾げて、じっと見つめる金の瞳の前に、斉藤がバーナビーを見た。
「この際、タイガーも利用したらどうだい?」
「・・・・・・」
 バーナビーが斉藤を見て、再び虎徹を見る。
虎徹は判らないな、なにかな?というように二人を見上げていて、すでに耳が半獣化していた。
油断するとこの人はすぐに獣になりたがるから、とバーナビーはため息をつき、それでもこの綺麗な銀黒の毛並みと、耳と尻尾は嫌いじゃないなあなんてことを思った。
「バニーちゃん、なにか俺に出来ることある?」
 虎徹がキラキラと輝く満月のような瞳で聞いてくる。
信じてもいいだろうか? この純粋で凶暴で、その癖素直で綺麗な生き物を?
 斉藤はバーナビーを見て小さく頷く。
そして、バーナビーは虎徹の鋭く爪の伸びたその手を取った。



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