Call me 時系の魔女 | ナノ
Call me 東経180度線のタクティクス (16)


エピローグ NC1981

「虎徹さん」
 優しい風が頬を撫でていく。
白い帆船のような雲がぽかりと浮かんだその空を眺め、虎徹は呼ばれる声に振り返った。
「病み上がりなんですから無理しないで」
バーナビーはそういいながら手に持っていたペーパーカップのコーヒーを虎徹に渡し、彼が座っていたベンチの横に自分も腰掛けた。
 ゴールドステージ崩落事故から1ヶ月が経った。
無数の箇所に砕かれていた骨がやっとくっついて、起き上がれるようになったのが先週の事、虎徹の能力を駆使して治療に応用しても立って歩けるようになるまでそれから更に5日を要した。それでも現代医学の常識を凌駕する勢いで回復していく虎徹に、医療関係者は肉体強化系N.E.X.T.というのはなにかやはり違うのだなあという驚嘆を隠せない。今後の医療に役立てたいからと望まれたので、自分でよければと虎徹は治療の傍ら生体サンプルの収集にも協力した。
 一時期は生命も危ぶまれ、それどころか意識が戻る事すら怪しいと危惧されたそれから、本当に奇跡のように回復したのだ。
医師もヒーロー復帰が可能だと太鼓判を押してくれた。勿論それには厳しいリハビリが必須だったのだけれど、虎徹ならやり遂げるだろう。バーナビー・ブルックスJrは目を細め、コーヒーを啜る虎徹の横顔を眺めながら幸せだと思った。誰にとも無く感謝した。ありがとう、この人を奪わないでいてくれて。本当にありがとう、と。
 そんなバーナビーの心中を知るわけも無く、虎徹は何かを思案しているように見えた。
瞬きを何度か繰り返し、コーヒーの温かさを確認するように何度も手で擦っている。そんな仕草にバーナビーは何か自分に言いたい事があるのだろうかと察した。
神妙に表情を引き締めて虎徹の顔を覗き込めば、虎徹のほうもバーナビーが何を緊張しているのか悟ったらしい。
違う違う、と右手を振りながら笑っていった。

「夢かも知れないんだけど聞いてくれるか」
「はい」
「俺は本当はこの事故で死ぬはずだったらしいんだ。だけど未来の俺の子孫がさ、笑っちゃう事にそれが友恵そっくりなんだ――彼女がその時間関係のN.E.X.T.でさ、俺が死なないでお前と幸せになる未来へ俺を跳ばしてくれた――っていうんだ」
 想像していたのと違う話で、どう応えていいのかわからずバーナビーは小首を傾げ虎徹の声に耳を傾けた。
「お前の子孫にも遭ったよ。出会ったばかりのお前そっくりで、なんだか寂しそうで、でも凄く頑張ってた」
 それとさ、と虎徹は続ける。
もう一人、楓そっくりなのに男の俺の子孫もいたよ。まるで昔の俺たちみたいに一緒に楽しくやってたよ。
「――そしてやっぱり、お前に恋してた」
「虎徹さん」
 バーナビーは一瞬腰を浮かす。それはとても素敵な事だけれど、虎徹はともかく自分の子孫がいるということは、いつか僕はこの人から離れていくのだろうかとそう思ったからだ。だが虎徹は少し寂しげな目をして足元に視線を落とす。
「もうあの未来に俺たちは続いていない。でも、それでもな、夢だったとしても俺はあれはあれで良かったと思うんだ。どんな未来でもお前が幸せで居てくれればいい。愛おしいと思ったよ。二度と躊躇わないと、二度と間違いを繰り返さないと誓った。知枝――俺の子孫は幸せになれって言っていた。だから」
ペーパーカップのコーヒーを自分のベンチ左側に置くと、虎徹はバーナビーの左手に右手を置いて、ぎゅっと掴んだ。
「愛してる。ずっと、一緒に歩けるだけ歩いていこう。例えいつか離れ離れになるとしても、もう後悔しない。それを恐れたりしない。だって俺たちは本当のバディだからな」
「虎徹さん」
 ええ、ええ。
バーナビーは虎徹のほうに身体を向けて添えられた虎徹の右手に自分の右手を乗せた。それからそっと、その身体を労わるように抱きしめるのだ。

 コーヒーを飲んで、くしゃっと虎徹がペーパーカップを握りつぶして、風が吹いて雲が行って。
やがて二人は立ち上がり、共に歩き出す。
「退院時に楓とかーちゃんが迎えに来るって」
「自宅療養中何処に泊まって頂きます? うちでも構わないですけどゲストルームが一つしかないので近くにホテルを取りましょうか」
「様子見だけだからそんなに長居しないよ。二日ぐらいだからバニーんちで充分だ」
「じゃそういうことで」
 虎徹がそういえば、と言った。
「楓は諦めないって言ってたぞ。何を仕掛けてくるか判らないから覚悟しとけ」
「ふふ、望むところです。まずは炒飯対決? ですかね」
 虎徹がぶはっと吹きだしてその後いててとわき腹を押えて顔を顰める。バーナビーは苦笑して肩を貸した。
 二人の指に嵌る指輪。バーナビーは薬指に、虎徹は小指に。
虎徹の薬指はもう誰とも約束できないけれど、二人の指にあるそれはいつか離れ離れになる日まで共に歩こうと誓った証だった。
 
 どうか俺を呼んでくれ。
 僕を呼んでください。

もう自分の思いに嘘はつかない。怯えも恐れも無い。ずっと行こう。全てを抱きしめてあるがままの未来へ。
その願いは遥かに叶い、約束になる。

いつか本当の別れが訪れる日まで、永遠に。






TIGER&BUNNY
【Call me 東経180度線のタクティクス】The cat which is not tamed.
表紙
Pixiv ID 7837645 PHOTO BY しお さんからお借りしました。ありがとうございました。
DotsDomino
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誰も彼も幸せであるように。









 thank you.


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