Novel | ナノ

S.O.S. H-01 type-K -PI(5)



 楓が結婚すると風の頼りに聞いた。
そのうち、斉藤が招待状をバーナビーに手渡しに来た。
「Kを連れて行ってあげて欲しい」
「・・・・・・」
「楓君も、お父さんに会いたいんだよ。 辛くて手放したものだろうけれど、これはタイガーそっくりなんだから・・・」
 Kが無表情に横から眺めていたが、楓という言葉に反応した。
「楓」
 そう呟くKに、バーナビーは訝しげな目を向ける。
Kと共に活動するようになって5年が過ぎていた。
機械には人を超えることは出来ない、これは虎徹さんではない、虎徹さんには成りえない。
そう納得すると同時に、Kに対する遠慮が消えた。
これは唯の道具なのだ。
自分の指示を待ち、自分の思い通りになる人形であって、それ以上でもそれ以下でもない。
 そう思えば、自然と抱くことにも嫌悪感が無くなった。
これは、そこらに転がっているバイブやローターと変わりのない、ただの道具だ。
しかし、優秀な人形ではある。
覚えはことのほか良かった。 
事に及ぶときに無表情でいられる方が辛かったので、房事は事細かに教え込んだ。
まさに手取り足取り、喘ぎ方や、悶え方も丁寧に指導し、今では相当なものだとバーナビーは思う。
このままブロンズセカンドタウンエリアに立たせておけば、数日で一財産作れるのではあるまいか。
勿論、虎徹の姿を模したそれを、そんな風に扱うわけがないのだが。
 しかし、今でこそ多少優しく扱えるようになったが、最初の頃のバーナビーは荒れていた。
Kは余りに残酷すぎた。
虎徹に似すぎていたのだ。
こんなに完璧に再現しなくてもいいだろうにと、怒りは当然Kに向き、一時期メンテナンスに見せるたびに、斉藤はバーナビーを叱責した。
「彼に苦痛はないとはいえ、これは酷い。 君はタイガーをこんな風に扱っていたのかね? これはタイガーの形見でもあるんだよ・・・、大切にしてやってくれよ」
 鼻で笑って聞き入れないバーナビーを庇ったのはKだった。
「バニーは俺を大切にしてくれてる。 人として扱ってくれているんだ、斉藤」
「K・・・、お前それじゃあ・・・」
 切なく自分を見つめていた斉藤の顔が忘れられない。
それから、自分を微笑んで見つめていた、あの紅の瞳も。
あの日から、バーナビーは少しだけKに優しくなれただろうか。
「楓に会いたい」
 Kがぽつりと呟き、バーナビーはまさか、と言った。
斉藤が言う。
「Kは学習してる。 人の心を、君の心も。 人として成長していっているんだ」
「感情の学習をするのは知ってました。 でもそれでも、これは虎徹さんじゃない。 虎徹さんは死んだんだ。 もう何処にも居ない」
「バーナビー・・・」
Kが繰り返して言う。
「楓に会いたい。 バニー、楓に会いたい。 会いに行きたい。 行っていいか」
「・・・・・・」
 暫くバーナビーはKを見つめ、それから斉藤を見た。
逡巡して口を開くと、自分でも思いがけない言葉が出た。
「楓ちゃんは元気ですか」
「元気だよ。 Kの事を、君の事を心配して、毎月私にメールをくれていたよ。 それでもバーナビーに悪いといって、君にはどうしても連絡を取ることが出来なかったと。 行ってあげなさい。 これが最後になるかも知れないのだから」
 楓の能力は非常に珍しい能力で、今でもN.E.X.T.保護管理下に置かれている。
彼女の能力を狙って不埒なことを考える輩が後を絶たず、保護プログラムにより、Kを手放した直後から、楓の所在はヒーローと言えども解らない場所に隠されていた。
家族共々、バーナビーの前から消え失せたのだ。
あの聖夜、バーナビーはもしかしたら手に入れられたかも知れない家族をも、・・・・・・全てを失ったのだ。
 Kが傍にいれば、それも大丈夫だったかも知れないのに。
近頃考えることがある。
恐らく、楓の為に、虎徹はtype-Kの被験体に志願したのではなかろうか。
確かに、ただ一人の人間をガードするためであるのなら、このH−01type-Kは最強の働きをするだろう。
人間とは違い、不眠不休で楓の傍で半永久的に機能する。
そしてその力は、現時点存在するパワー系N.E.X.T.最強といわれている、ハンドレットパワーをも凌駕する。
更には、ヒーローたち全員を一騎で殲滅させた実績からしても、どんな相手が襲ってきてもtype-Kには敵わない。
Kは完璧に楓を保護しただろう。
なのに何故、楓はKを手放したのか。
自由よりもなによりも、このKを遠ざけることを選んだのは何故なのか。
故郷を捨てて、バーナビーも捨てて、過去をも捨てて、Kを捨てて。
そして彼女に何が残ったと言うのだ。
その答えを聞くためにも、結婚式には行くべきだろう。
そして恐らく、これが楓と会える最後の機会となるだろうから。



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