Novel | ナノ

Call me 君の名を呼ぶ(14)


ending NC1981.10.31


 気づくと、目の前に金色の髪、翡翠の瞳から止め処もなく零れ落ちる涙。
自分の頬にぽたぽたと落ちて、開かれた睫に弾けた。
「こてつさん、こてつ、さん!」
 視界がはっきりしない。
あまりの眩しさに目が眩み、ニ三度虎徹は目を瞬いた。
そして自分の身体を襲う痛み。
痛い、やばい、無茶苦茶体中痛ぇ。 ああでも、痛みが嬉しい、だなんて。
 還って来たのか。
俺は死ななかったのか。
小さな贈り物、・・・・・・差異とは、こういうこと?
俺が生きて、バーナビーと幸せになる未来、そっちへ飛ばしてくれた?
知枝、は違う未来へ行くって言っていた。 でもそれも、全て俺が見ていた唯の夢、だったのだろうか?
「こてつさん」
 言葉にならず、ただ、自分の右手を握り締めて、バーナビーが震えている。
バーナビー、バニー、俺のバニーだ。
温かい、生きてる。 神様ありがとう、俺のバニーが生きて傍に居る。
鼻の中にチューブが突っ込まれていて、ふがふがと虎徹は嘔吐いたが、不明瞭ながら声が出た。
「バ、ニー・・・ィ、 お、・・・れ」
「こてつさん、良かった。 僕です、判りますか? 虎徹さん・・・」
 震える手を微かに握り返し、虎徹は微笑んだ。
「判りますか? あの事故からもう1週間も経ってるんです。 このまま虎徹さんが目覚めなかったら、どうしようかって」
「そ、か、じゃあ、今日は」
 バーナビーは涙を一杯に溜めた目を虎徹に落とし、微笑みながら首を振った。
「最高の誕生日プレゼントだ。 ありがとう虎徹さん、生きていてくれて。 ホントに他に何もいらない」
「ばかな、」
 虎徹は笑おうとして痛みに顔を顰める。
きょろりと目を動かすと、バーナビーは虎徹の言いたい事を、テレパシーがあるかのように正確に理解していた。
ポケットから小さなリングボックスを取り出すと、それをそっと虎徹の右手に握らせる。
「これ」
「見つけ・・・ちゃったの、か」
 少し残念そうに、でもとても嬉しそうに虎徹が言う。
「ええ。 貴方のずっと肌身離さず持ってたんでしょう? ヒーロースーツをカットする時、胸から転げてきたって」
バーナビーは虎徹の胸にそっと手を這わす。それから慎重に身体を預けてみたが、それは無理のようだった。
「いてててて」
「あっ、ごめんなさい」
 慌てて身体を離して、でも名残惜しそうにずっと虎徹の頬に手をなら添えていて。
じっと自分を見つめている翡翠の瞳に、虎徹は思う。
もう迷いはない。 
何時でも大丈夫、何時でも明日があるからなんて、そんな恐ろしい事俺は確信しない。
バーナビーに偉そうな事を言ったけれど、実際俺の卑怯度合いは大したものだ。
偉そうに、信じろとか言えた義理ではない。 
それなのに、俺の子孫の虎太郎は、俺よりずっと賢くて、てらいもせずに言いやがった。
さくっと言った。 無茶苦茶潔かった。 いいな、畜生、俺だって。
虎徹はひとつ息を吸い込むと意を決して言った。
「バニー、聞いてくれ。・・・・・・俺と、――――俺と、これから先、一緒に、生きて行ってくれる、か?」
「喜んで」
 そういいながら、翡翠の瞳からぱたぱたと涙が溢れ出ていく。
虎徹は今、この瞬間抱きしめて上げられない自分を呪った。
ああでも。
「待たせてごめんな、バニー」
 いいえ。
「お前を、俺の人生二度目のパートナーにしたい。 友恵のことは忘れられないけど、・・・都合のいいこといってるけどごめんな。 でもお前の事を愛してる。 一緒に幸せになろう。 絶対だ」
 はい。
「愛してる、俺と結婚してくれ、バニー」
 勿論。
えぐえぐと本格的に泣き崩れるハンサム。
今度は悲しみの涙ではなく、ただ嬉しくてたまらない涙で、なんだか声が裏返っていて虎徹は笑いそうになった。 でもそれからそうだよな、当たり前だよなと自分も涙ぐんだ。
虎徹はバーナビーにリングケースを開けるように言う。 プラチナのシンプルなそれをつまみ上げると、そっとバーナビーの左手の薬指に嵌めてやった。
「誕生日おめでとう、バニー」
「虎徹さん・・・」
 ううっとまた泣いてしまうバーナビーの髪を、右手でそっと撫ぜて。
「愛してる。 大切だ、お前と一緒に未来、ずっと歩けるだけ一緒に歩いていきたい。 もし途中でどちらかが道半ばで倒れても、悲しまないでくれ。 俺はずっとお前の傍に居る。 約束するよ。 だから俺も俺の傍に居てくれ。 大好きだ、バニー」
 はい。
バーナビーは顔をくしゃくしゃにしてまた泣いた。
愛してる、もう後悔しないように、今から毎日きっと言う。
 虎徹は泣きじゃくるバーナビーの頭を、出来る限り優しく撫でてやった。






ありがとう、言わせてくれて。

ありがとう、もう一度、巡り合わせてくれて。

今度は絶対無駄にしない、失敗しない、毎日紡ごう、大切にしよう、毎日感じよう、一日一日が、神様からの贈り物だって。




 今日も君の名を呼ぶ。

心を込めて、毎日悔いのないように。


大切な人へ伝えよう、何時でも何処でも何度でも、傷ついても裏切られても、信じることを忘れない。

だからお前も俺を呼んでくれ。 辛い時悲しい時、誰よりも強くどうか。





   そうすれば、最後はきっとハッピーエンドだよ。






TIGER&BUNNY
【Call me 君の名を呼ぶ】The cat which is not tamed.

Thank you




カウンターリクエスト作品
この物語は、「虎兎で甘やかす虎と甘えっ子兎」をテーマに作成されました。



>>【Call me 君の名を呼ぶ】の続編 Call me 時系の魔女 夢小説版で収録 2013.8.2



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