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最強!オリエンタル商店街(4)



NC1966.2.5

「どぅおわあぁあああああ!」
丁度目覚めて弟の部屋の前を欠伸しながら通り過ぎようとしていた村正は、その弟である虎徹の叫び声に、飛び上がった。
慌てて弟の部屋のドアを開け、「どうした!」と叫ぶと、なにやら首の根元あたりを掻き毟り、ベッドから床に落ちて転げまわっている虎徹を発見。
「どうした、虎徹、大丈夫か!」
「はっ!」
 村正が抱き起こすと、虎徹は金色の目をカッと見開き、ぜえぜえと息を吐きながら目を覚ました。
「どうしたんだ、一体全体なんなんだ」
 村正が聞くと、恐怖に引きつった顔をして、虎徹が「恐ろしい夢を見た」という。
「・・・・・・」
 村正は虎徹を突き飛ばした。
「ちょ、イテエな兄ちゃん」
「くだらない」
「く、くだらなくない! むっちゃコワかった! 数字が!教科書がっ、食べたら覚えられるっていうけど、あんなに沢山食べられないし!」
 何の話だ。
村正は立ち上がると、じっとりと弟を見下ろした。
虎徹はまだ、身振り手振りで、「あな恐ろしや」とやっているが、夢の話なんか第三者には要領を得ないに決まってる。
一発頭を小突いて、村正は階下へ降りた。
 暫くして、まだ「なんと恐ろしい」とぶつぶつ言いながら虎徹も階下に降りて来て、朝食になる。
朝食の席でも、虎徹はまだ「恐ろしい、なんだあの夢」と呟いていたが、母安寿に、「あんた、食べる時ぐらい静かにできないの」と言われて口を噤んだ。
「今日も、友恵ちゃん来るんだろ?」
「うん」
 安寿がため息をつく。
「大学はなんとか卒業できそうだけど、あんたその、ライセンス取得の勉強は進んでるのかい?」
「あー、うーん、まあ、ぼちぼち?」
 弟の答えに村正もため息をつく。
「ヒーローライセンス取得の為の予備校なりなんなりあれば話は簡単なのにな」
「かといって、そのなんだっけ? ヒーローアカデミーなんかにゃ通わせるのは無理だからね」
 シュテルンビルトというオリエンタルタウンに一番程近い都会には、卒業時にヒーローライセンスが必ず取得できるという学校が存在しているのだが、残念ながら通うには距離がありすぎた。
そして問題は、ヒーローライセンスを取得したとしても、ヒーローとして活動するには、ヒーロー事業部を持つ何れかの企業に入社するしかないのだ。
あるいは、独自でスポンサーを見つけてバックアップしてもらうしかない。 だが、後者は現実的に無理がある。 
「ライセンス取ったあとには、ヒーロー事業部のある各企業の入社試験を受けなきゃならんのだぞ、虎徹」
「わーってるよ」
 もぐもぐと口を動かしながら、虎徹が嫌そうに言うが、本当に解っているのかと、村正は思う。
第一、この男は。
「友恵ちゃんと結婚するには、ヒーローはともかく職を持つことが条件だからな。 ライセンス取れなくても、入社試験は受けろよ」
「わーってるってば。 もう一応、受ける会社も決めたモン」
「出版社だったよな?」
 虎徹が頷く。
「だったら、一応出版関係の知識も頭に入れておけ。 ヒーローだからって馬鹿でいいわけがないだろう」
「馬鹿言うなよ」
 虎徹はむっとしたが、村正は「いーや、お前は馬鹿だ」と涼しい顔で沢庵を一切れ口に入れた。
「ライセンスが取れなかった時のことを考えて、一般社員としてまず入社する事も考えておけ。 ライセンス試験は毎年あるんだから、今年落ちても、来年また受ければいいだろう。 それから改めてヒーロー事業部の試験を受けたほうがいい」
「えー面倒」
「虎徹お前な」
「はいはい、もう止しとくれ。 取り合えず食べちゃいなさい。 で、虎徹今日は学校行くんだろ?」
 いくー、と味噌汁を啜りながら虎徹。
やがて食事が済むと、虎徹と村正は並んでキッチンへ行き、食器をシンクに沈めた。
「虎徹」
「なに?」
「今更だとは思うが、嫁入り前の娘さんなんだ、外で噂になるようなことは止せよ」
「してねーよ」
「・・・・・・」
 村正は肩を竦める。
それから、「寄り道しないで帰ってこいよ」と言った。




「近頃夢見がすっげ悪いんだよね」
 虎徹がぶつぶつと言う。
隣にいるのは、近頃眼鏡からコンタクトレンズに変えた、虎徹の恋人である友恵である。
彼女はさらさらした黒髪を、悪戯な微風に吹き散らかされていたが、ため息を一つついてシュシュでひとつに纏めた。
「どんな夢を見るの?」
 虎徹の自宅までの道のりを二人して帰る。
大学は殆どもう授業はなく、卒業を待つだけとなっていたが、虎徹の就職先はまだ決まっていなかった。
希望しているものが特殊職業だということもあって、大学側も前例がなくお手上げだというのもある。
それでも、シュテルンビルト最大の出版会社であり、ヒーロー事業部のあるトップマグの一般入社試験は受けるつもりだったので、今日はその大学側の手続きに行って来たのだ。
後はヒーローライセンス試験の為の書類他一式、それは司法局から大学側へ届けられていたのでそれも受け取って帰ってきた。
もう、試験は2週間後に迫っており、受験する当人である虎徹よりも、何故か友恵の方がやつれて見えた。
「なんか、レジェンドのフリをした得体の知れないおっさんが、俺に夢の中まで試験勉強させようとするんだ。 悪夢だなあれは」
 やっぱり、なにかあるのかね、と虎徹は友恵を見る。
友恵は顔を虎徹へと向けると、困ったように笑った。




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