摂氏42℃とラムネと金魚(10) エンディング ジャズバーで、アントニオは虎徹を待っていた。 久しぶりに二人で呑もう。 そう誘ったのは、昼間からシュテルンビルトに出来たばかりの新名所、フォートレスタワービルで爆発物設置騒ぎがあったからだ。 危うく爆弾で吹っ飛ぶところだった虎徹は、このシーズンにバディを組んだばかりの新人と共に、機転でそれを切り抜けた。 どうやって切り抜けたのかというと、ハンドレットパワーでフォートレスタワービルの天井をぶち抜いて、新人が爆弾を蹴り上げて空中爆破したのだ。 よくやるよ、と正直アントニオは、その爆弾処理の仕方にかなり呆れたものだ。 虎徹は幾分歳を重ねて大人になったように思えるが、時折、高校生時代と全然変わらないやんちゃぶりを発揮するのだった。 そんなことを考えていると、入り口付近に見覚えのあるハンチング帽が現れた。 アントニオは、虎徹に手を振った。 「焼酎、ロックで」 虎徹はバーテンダーにそう言い、アントニオの横に腰掛ける。 アントニオが聞く。 「な、どんなやつだったんだ、爆弾犯」 悪戯っ子のような顔で興味津々聞いてきたアントニオに、ちょっと苦笑し、虎徹はうーんと思い出す。 「ん、なんかーフツーの、悪そうなヤツ」 「そうか・・・」 「C9(シーナイン)なんか持ち出しやがってよう、どうなってんだかなあ」 そう呟けば、アントニオが仰天したように言った。 「C9ってお前、最新爆弾だろう? なんでそんなものが」 「ったく、嫌な世の中だよ・・・」 一口焼酎を口に含んだ虎徹に、アントニオはもうひとつ気になっていたことを聞いた。 むしろ、済んでしまった爆弾騒ぎより、こちらのほうが虎徹には重要な話かもしれない。 「バーナビーとはうまくやれてんのか?」 「さあな」 アントニオが指差したHERO TVで、虎徹が言った。 「えっ、バーナビー君? 最高のパートナーですよ。 こう見えて俺たち結構似てるところがあるんです」 真っ直ぐで正義感に溢れ、おっちょこちょいで、でも憎めない親友は、少年のまま大人になった。 俺とその少年は長じて夢を叶え、ヒーローとなりシュテルンビルトを長く守っている。 もうそろそろ引退だろうかと周りに言われているが、まだまだ現場では自分たちのようなベテランが必要だろう。 その昔、とある医師が、予言した。 俺たちは第二世代、そしてもうすぐ、第三世代のN.E.X.Tたちが生まれてくると。 それは自分たちよりもよりいっそう、完成された、次の人類。 その中には、よりいっそう完成された、次の虎徹や俺が居るのだと。 そして予言どおり、第三世代のハンドレットパワーの持ち主が現れた。 それは奇しくも、虎徹のバディとなり、共にこの星座の街を守る仲間となった。 彼は自分の分身のような、この相棒とうまくやっていけるだろうか。 そして彼もまた、虎徹のように苦悩し、挫折するのだろうか。 その時、虎徹は彼の力になってやれるのだろうか。 アントニオはそんな風に思った。 虎徹は自分の横で静かに焼酎を飲みながら、少し哂う。 虎徹は歳を取った。 自分と同じ年月だけ、歳を重ねた。 でも、虎徹は変わらない。 その本質は、あの夏の日から凝縮されたままだ。 その横顔に残る少年の日の面影。 そして真っ直ぐなその魂と情熱。 今はもう、虎徹の愛した友恵は居ないけれど、二人の約束はまだ左手の薬指に光っている。 思い出すのは、摂氏42℃の真夏日と、ラムネの清涼さと、あの赤い金魚。 虎と兎のシュテルンビルト事件簿「The fan of yours」外伝 【摂氏42℃とラムネと金魚】 Five minutes One hundred power. CHARTREUSE.M 2011 thank you. [mokuji] [しおりを挟む] Site Top |