摂氏42℃とラムネと金魚(5) 次の日も虎徹とアントニオは一緒に居た。 朝早くから電話があり、今日は一日外に居ると言い出した。 炎天下で外とかどんな地獄なんだよと、アントニオは反対したが、やはり行く所がないので、極小さな森林公園の中にいた。 アスレチックが設置してあり、林の中にはピクニック用なのか、丸太で出来たテーブルと椅子が点在している。 その中のひとつに腰掛けて、アントニオはスポーツドリンクを飲んでいた。 虎徹もミネラルウォーターを持っていたが、ボトルを開けないでそのまま横に置いてある。 そして虎徹は一冊のノートを持っており、なんだかそこに書付をしていた。 「お前何書いてんだよ」 「俺の能力のわけのわからん出方について、記録してんだよ」 虎徹は顔を上げずに言った。 「なんか能力特定するって、せんせーが言うんだけど、まずは現在どうなってるのか3日分ぐらい記録してもってこいってよ」 「村上先生?」 「そそ」 アントニオは深いため息をついた。 一応森の中なので直射日光は避けられているが、その分湿気が凄い。 じっとりと暑く、風もなく、今日もやっぱり蝉の鳴き声は非常に五月蝿い。 虎徹が自分の頬に流れる汗を、多分無意識に左手で拭っている。 「もう能力暴走気味だからな。 しかしすでに友恵さんと直接関係なくても、お前能力暴発してないか」 そう聞くと、虎徹が投げやりに答えてきた。 「あー、なんか 思春期ってやつ? そこらへんでおかしくなることがあるんだとよ」 「思春期とか自分でいうと、馬鹿みたいだな」 「うるせーよ、俺はお前と違って青春してんだよ」 ゴリゴリとノートに書き綴っているので、ひょいと取り上げて見てみたら、力の出方というよりも、破壊した物を書いているだけだった。 「返せよ」 「虎徹、お前破壊したものを書いてもしょうがないんじゃないのか? どういう風に破壊したか書かないと村上先生も困るだろ」 それもそうだな、と虎徹はアントニオからノートを取り返すと、なにやらゴリゴリと書き足した。 「これでよし」 「・・・・・・」 鉛筆が壊れた。 握ってたら、突然真っ二つに折れた。 慌てて拾ってみたら、掴んだ部分がまた折れた。 むかついたので、指でいじってやったら粉になった。 手が汚れた。 「思うに」 アントニオが咳払いしながら、こう言った。 「どう壊したのは良く解ったが、やはりこれだけじゃ足りないと思う。 持続時間とか書いてみたらどうだ?」 そうか解った。 そういって更に虎徹が書き足した。 鉛筆が壊れた。 握ってたら、突然真っ二つに折れた。 慌てて拾ってみたら、掴んだ部分がまた折れた。 むかついたので、指でいじってやったら粉になった。 手が汚れた。 馬鹿力になってたのは、多分30秒ぐらいだと思う。 「なんかまだ足りない気がするな」 「ああもういいよ」 虎徹がぐったりとノートに突っ伏した。 「なんかお疲れのようだな」 「俺は毎日お疲れサマーだよ。 暑い、いやだもう死ぬ」 「色々大変な男だな」 「アントンはいいな。 なんかあまり動じることなさそうで」 「そんなことはないぞ」 「見ていいか?」 「ほれ」 虎徹がノートを貸してくれたので、最初から読んでみるとかなりすごいことになっていた。 というかまさに、破壊王だ。 クラッシャー虎の復活というわけだ。 ていうかもう、どこから突っ込んでいいのか解らない。 電柱が折れた。 俺はよっかかってただけなのに、ちょっと反動をつけて歩き出そうとしたら、何故か電柱が折れた。 電力会社と電話会社に怒られた。 ソフトバンクに怒られた。 警察に怒られた。 器物破損だって言われた。 かーちゃんに怒られた。兄貴に拳固もらった。 炊飯器の取っ手がもげた。 普通に飯よそおうとしただけなのに。 かーちゃんが怒った。もうちょっと注意して使え、家が壊れるとかいうけど、俺はいつでも注意して生きてる。 これ以上どう注意していいのかわかんねえよ。 湯飲みを全損させた。 何を手に持っても壊れる。 なんかもう、コントロール駄目駄目になった。 これが青春ってやつなのか。 郵便ポストをへこませた。 触っただけなのに。 でもこれは誰にも気づかれてない。 速攻逃げてやったぜ。 「おま、お前。・。。。」 「なんだよ」 「おもしれえな、お前」 爆笑しながら言うんじゃねえよ。なんだよ、笑うなら返せよ。 虎徹が飛びついてきたが、アントニオは返さなかった。 「いやいや、読ませろよ、お前文才あるぞ」 「余計な世話だよ、返せよてめー、俺はマジで困ってんだぞ」 「いやいやいや、こりゃ相当可笑しいぞ」 可笑しすぎて半分前のめりになりながら、アントニオは続きを読んだ。 ああもうむかつく。 蛇口壊した。 ていうかひねるとこだよ。 風呂だけど、ぐにゃぐにゃになりやがった。 兄貴が俺を殴る。殴りすぎだろ、弟をなんだと思ってんだよ。 いっぱい殴んなよ。頭くんなもう。 突然聴力と嗅覚が上がったらしい。 よりによって夏期講習中かよ。マジこれなんの能力なんだよ。 パワー系なんじゃないのか俺。 聴力と嗅覚って力関係ないだろ。 無茶苦茶耳が痛ぇ・・・。そしてすげえ臭ぇ。泣ける。 なんかこれはマジ勘弁。 みんな声がでけえ。あと、人間の心臓の音ってすごいうるさいのな。 波のような音にも聴こえる。ザーザーいいやがって、みんな一回心臓止めろ。 川西が早弁してた。 尾谷は透かしっ屁すんなよ。 マジ勘弁。 ああくそ、なんだよこれ。 何が強化されてるんだかわかんね。 パワーってなんだ。単純に俺の場合力だけじゃないぞ。 ホントに俺はパワー系N.E.X.Tなのか。 やばい、フライパンを壊した。 でもこれは俺のせいじゃない。 兄貴のせいだ。 兄貴が俺を殴るのに、拳固じゃ痛いから、お前が光ってる時はなにか別のモンで殴るとか言い出した。 なんだよ、その都合。俺だって好きで能力出してんじゃねえよ。 で、能力でてるときにフライパンで殴ってきたから手で防御したら、フライパンの柄が折れた。 なんだよ、根性なしのフライパンめ。 そして何で俺が怒られるんだよ。おかしいだろ。 怒るなら、根性のないフライパンか、殴ってきた兄貴の方だろ。 友恵のくれた、レジェンドのストラップ壊した。 マジ凹む。 立ち直れねぇ。 もうだめだ。 みんなさよなら。 アントニオが悶絶して、ノートを持ったまま崩れるように丸太の椅子から転げ落ち、地面に座り込んだ。。 必死に笑い声を抑えようとしたが、無駄な抵抗だったようで、途中から努力を放棄してげらげら笑い出した。 「あははははははは!!!!」 「笑うなよ、てめーもう返せよノート!」 虎徹がげらげら笑うアントニオからノートを取り返し、すごい勢いで横腹に蹴りを入れた。 [mokuji] [しおりを挟む] Site Top |