Novel | ナノ

桜歌 Celebrate Kirsche12(1)


Kirsche12


 レヴェリー大丈夫か? 全くもう無茶しやがって、二度とあんな使い方するなよ。

誰かが自分の髪を優しく撫でている。
レヴェリーは目を覚ましたいのに覚ませない、目が開けられないと少し焦った。
それでも暫くすると瞼がなんとか上がって、手足は金縛りに逢ったように動かなかったけれど、なんとか少し首を動かして自分の頭を優しく撫でている人物を知ることが出来た。

 タイガー。

 それはテレビでよく見るワイルドタイガーその人だった。
緑のベストとすらりとしたスラックス、最近オールドスタイルだといって服装を元に戻したワイルドタイガーが「若い!」と巷で評判になった。
それを見た父が懐かしい、でも全然変わってないと興奮して「東洋系はいつまでも若々しく見えていいなあ」と少し悔しそうに言っていたのを思い出す。父の方がずっと年上だと思っていたのに実はワイルドタイガーの方が父より年上だということを最近知った。

 ああ、良かった。元に戻れたんだね、バーナビーがきっと助けてくれたんだ、良かったねえ、本当に良かったね。

そう呟きふと自分が何処か真っ白な部屋に居ると知る。真っ白な部屋、白いシーツのベッドに横たわっている自分は恐らく病院にいるのだろうと予想がついた。あの後気を失ってしまったしね。しかしどれぐらい経ったんだろう? 何日ぐらい私寝てたのかな。
 ワイルドタイガーは自分に背を向けてベッドの縁に腰を掛け、上半身だけ捻って右手で自分を撫でているよう。
自分を心配そうに覗き込む瞳が透き通った金色で、この人は日系人だっていうけれど瞳はアンバー、所謂北欧系に多いヘイゼルなんだなと思った。
お父さんかお母さんが向こうの人だった? それともお祖父さんお祖母さんが? シュテルンビルトはコンチネンタルでもドイツ系の祖を持つ人がとても多いと聞いたから。
 そう思うとワイルドタイガーはよどみなく「自分じゃ判らない、そんなに珍しいか? バニーも似たようなことを言ってたな。光の入り具合でたまに俺の瞳も緑に見えるって」と答え首を傾げた。
 そしてなんにしても良かった、と。

 最後の最後であんな目に逢わせてごめんな。俺はもう行くよ。これでやっとバニーのところへ行ける。やっと自由に思ったところへ行けるようになった。それはもう俺自身じゃないけれど、レヴェリー、機会があったらバニーにそれを――かつて俺だったその花びらのくっついたしおりを渡してやって。少しでも慰めになるだろうから。多分これを君に頼むために俺は君のところに残ったんだろう。最後まで悪いな、頼み事ばっかりで。喉、しっかり治せよ。ずっと治るように撫でてたけど俺にはこれが精いっぱいみたいだ。最後まで面倒かけてごめんな。ありがとう、レヴェリー、感謝してる。

 待って、何処へ行くの!

 自分の傍ら立ち上がるワイルドタイガーにレヴェリーは叫んだ。でも身体がベッドに縛り付けられたように動けない。
なのに彼が立ち上がって遠くの暗がりに向かって歩き出すのがはっきりと見えた。
駄目だよタイガー、そっちはとても良くないところだ。

 どういうこと、タイガー、ねえ! だってバーナビーが助けてくれたんでしょ? 助けてくれたんでしょう! 私がここにいるんだから、待ってよタイガー行かないで! ねえ! そっちはなんか駄目だよ、やばいって感じがするよ。取り合えず説明して。それからでいいでしょ、ねえ説明していってよ! タイガー! ちょっと待ちなさいよこの……!

「あんぽんたんヒーロー! ちょっとおっさん! 人の話聞きなさいよ、バカ―――ッ!!」

 渾身の力を込めて起き上がろうとしていたそれが功を奏したのか、突如としてぶちんとゴム紐が切れるように体が自由になる。
レヴェリーはそんな絶叫をしてベッドの上で飛び起きた。
「――え?」
 レヴェリーはぽかんと辺りを見回す。
目の前に母親と看護婦がいて、二人ともレヴェリーの方を向いて絶句していた。
一気に顔が赤くなる。
 壮絶な寝ぼけ方をしてしまった! とレヴェリーも気づいたからだ。
にしてもあれが夢? あんな夢。ああもーやめてーとても不吉じゃない! でも夢で良かった……。
「レヴェリー!」
 一拍置いて茫然自失から解放された母がレヴェリーの枕元に飛びついてきた。
「良かったわ、目を覚まして。先生は一週間ぐらい声が出ないんじゃないかって言ってたけどNEXTは判らないとも言ってたから心配してたのよ。特に後遺症もなさそうだし大丈夫そうね」
「私どれだけ寝てたの?」
「昨日の夜搬送されてだから十六時間ぐらいね。バーナビーが貴女を救出したのよ」
「そっか。ね、タイガーは? 元に戻った?」
「……」
 不気味な沈黙があったと思った。
看護婦が「どうします?」と自分の母に後ろから聞いてくる。しかし母は首を横に振った。
暫くして看護婦がお大事にといって個室を出ていくと、じっと自分を見る母親が目の前に残って、まだ無言だった。
「やだ、お母さん何? あっ、そういえば暴走車はどうなったの? 止められた? タイガー元に戻って直ぐにヒーローに復帰しちゃったのかな。なんにしても無事なら……」
「レヴェリー」
 母親が真っすぐに自分を見つめながら何度か口を開閉し、それから呟くように言った。
「テレビを、……見る?」
「? テレビ? なんで? あ、復帰記者会見があるとか?」
 母親がリモコンを取り上げてレヴェリーに手渡す。
レヴェリーはそれを受け取って首を傾げた。
「何?」
「ショックだろうけど話すわね。レヴェリー、ワイルドタイガーは亡くなられたの。多分、そうだと思うわ」



 どうやって家に帰ったのか覚えていない。
バーナビーは部屋の中でぼんやりと、ただ椅子に座っていた。
着替えはしたらしい。
第十七分署から脱出して、レヴェリーを救急隊員に引き渡した後から殆ど記憶がない。
HERO TVのインタビューは来たっけ。いやアニエスが居たけれど何も言わなかった。自分をじっと見ていたと思うけれどそれだけだった。
現場は混乱していたし、第十七分署は全て焼け落ち、けが人はレヴェリー一人だったけれどあの後大渋滞で沢山の集まった人たちは家に帰れず――電車もモノレールもいっぱいいっぱいで、誰かが泣いていた。いや皆泣いてた。ブルーローズ、ドラゴンキッド、ロックバイソン、それだけじゃない、シュテルンビルトの市民みんな、誰もが泣いて全部がお通夜みたいで――お通夜ってなんだっけ、そうだ虎徹さんが日本の葬式のやり方みたいなのを教えてくれて、通夜ってのはシュテルンビルト良くやる葬儀のあれだ、葬儀場でやるビューイングの事だって虎徹さんが言い出して――何の話題でそこに行ったっけ。そうだ、自分が死んだら日本式で通夜と葬式は別でやって欲しい墓は先祖代々オリエンタルタウンにあってそこにしか入らないからって、じゃあ僕はどうすりゃいいんですかってなんで墓の話になったかって僕の両親はシュテルンビルト郊外に眠ってるんだからそうだ、バラバラに眠るなんて嫌だって僕が。
――――何もないのに。
バーナビーの脳裏をその言葉が掠めた。
 もう何もないのに、虎徹さんの身体は何処にもないのに。まだ探せば一キロぐらいは、花びらが見つかるかもしれないけれどたった一キロじゃきっと戻せない。なんにもないんだ、それだけしかそしてそれを棺に入れて――滑稽だろうな、幾らかの桜の花びらが入ってるだけの棺を土葬にするのか。空間が無駄だろうな――オリエンタルタウンでは火葬だというけど、それこそ何も残らないだろう。そのまま花びらを小さな骨壺に入れる――ナンセンスだな、楓ちゃんは納得しないだろう。僕だってできるもんか。
 現実感が伴わなかった。
不思議なことに悲しくも苦しくもなかった。ただ何もなくなってしまった。感情すら。
 虎徹さん、哀しみ方が判らないです。僕は正しいことをしましたよね。
貴方に褒めてもらえますよね。ちゃんと――僕は成すべきことをやりました。でも貴方がいない。もう何処にもいない。
「今までどうやって、眠ってたっけ……」
 バーナビーは間接照明に向かって途方に暮れたようにそう呟いた。



 第十七分署に暴走車両が突っ込み炎上焼失後、HERO TVを含めて各テレビ局は淡々とその事件をニュースに流した。
市民へのインタビューは特になかったが、誰もがほぼこの件については口を噤んだ。表面上は兎も角裏面であるBchはまるで祭りの後のようにひっそりとしている。いつになく発言数は少なく、ワイルドタイガーのこの件については殊更何も言わない。発言は激減し、いつしかスレッドは一番下に落ちて書き込み不能となった。誰もがこのことに対して口を噤み話題にするのも憚られるというように息を潜めてしまった。あるいは自分自身の殻に閉じこもり、時折そっと安全地帯から外を伺う。世界は悪意に満ちていると誰もがこの時自覚してしまったからだ。
 十七分署が消失したのでワイルドタイガーの件は二十一分署が引き継ぐことになり、この時初めてエースワース・フォートミューロの名がニュースに流れた。フォートミューロの御曹司アレックス・フォートミューロは「超個体化」能力を保有するNEXTであり、ワイルドタイガー他数名の殺人容疑でシュテルンビルトに留め置かれていることも報道された。二十一分署は密かにワイルドタイガーの残り一キロ分相当の花びらの探索を始めていたが不思議なことに薄青く発光する彼と思わしき花びらはその後一枚たりとも見つからなかった。
 そしてこれは報道されなかったが、ワイルドタイガーの集まった花びらがほぼ全て燃えてしまったと知った市民から事件後何件か通報があった。
正確にはワイルドタイガーと思わしき青く輝く花びらを拾ったが、とても綺麗だったので一枚ぐらいいいだろうと数枚取っておいたという者からの自己申告が続出したのだ。彼らはHERO TVを見て自分が所有する花びらを返還したいと申し出たが、その時誰もがこう言い添えた。
「あの日以来、青く光らなくなってしまった。ただの花びらになってしまった」と。



「食べてるか、それより寝ているか? なあ、バーナビー、大丈夫か」
 第十七分署消失から二日目の朝、ベンが自分が今にも倒れそうな顔色をしながらそうバーナビーに聞く。
彼は両腕を広げてバーナビーの傍らへやってくると、バーナビーを徐に正面から抱きしめた。
「酷い顔色をしてるぞ、なあ、バーナビー、どこでもいい会社でもいいんだ、横にならないか。眠って食べなきゃ駄目だぞ。俺や斎藤ちゃんと違ってお前は人前じゃ倒れちゃいけない。虎徹の為にも踏ん張ってくれ。すまないな、俺がもっと気を付けていれば――――」
「ベンさんこそ凄い顔色ですよ。少し休んでください、僕は大丈夫です。腐ってもヒーローですよ、体力には自信がありますから」
「なんてこった、バーナビーお前、目を瞑る事も出来ないんだな」
 泣くことも、悲しむことも、苦しむ事すら。それ程辛いのか。自分自身の感情を封印してしまわなければ、立っていられないほど。
それでもベンはぐっと続く言葉を飲み込んだ。バーナビーは自分の立場をよく理解し、ヒーローとして最善の行動を取ろうとしている。
この心理状態に陥り長く苦しみながらもヒーローを続けた人物をベンは悲しいことに一人だけ良く知っていた。
 虎徹だ。
虎徹も長い事眠れず食べれずそれでも人前でそれを悟らせることなくヒーロー活動をやり切って来た。友恵を失った虎徹の崩れ方は傍で見ている人間の方が辛い程だった。それでも彼はヒーローだった。立ち上がれ、乗り越えろ、お前はヒーローなのだと背中を押し支え励ましながら逝った友恵の為にも虎徹は死ぬことも倒れることもましてやヒーローとして潰れることも出来なかった。
 長い事虎徹は涙を流すことも悲しむことも自分が苦しいという事さえ自覚することが出来なかったのだ。
またなのか、俺はまたこんな風に苦しむヒーローを間近で見て何もできないままなのか。
 ベンはバーナビーを抱きしめて「俺は諦めてねえぞ」と言った。
「え?」
「バーナビー、俺はまだ諦めてねぇぞ。虎徹は死んじゃいねえ、まだ何か方法がある筈だ。超個体化というNEXTが本当はどういうNEXTなのか本人にだって判っちゃいねえんだ。本当に虎徹が死んだかどうか確かめるまで俺は希望を捨てない。こんなバカな事があっていい訳がない、どんな絶望的状況でもあいつはいつだって生還してきた。そしてお前に出会ったんだ。こんな風に終わっていい筈がない」
 最後の方はベン自身自分に言い聞かせていた。
そうだ、こんな風に終わっていい筈がない、俺は認めねえからな虎徹。馬鹿野郎、これからだって時にバーナビーを一人置いて何処に行きやがったんだ。お前本当にこれからだったんだろう? バーナビーとのことを真面目に考えるって俺に言いに来たのはあれはお前の決意だったんだろうに本当にふざけやがって。誰が諦めてもバーナビーが諦めようとも俺だけは絶対に諦めねえからな。
 バーナビーは何も言わなかった。
しかしベンの抱擁に弱弱しい笑顔で応えた。まるで透き通ってそのまま居なくなってしまうようなそんな儚い笑顔でベンはその表情にも胸を突かれた。
バーナビーのスケジュールはこの事件のせいで分刻みにされており、その後直ぐに司法局の呼び出しを受けてアポロンメディアを出て行った。
ベンはその足でメカニックルームに向かい、斎藤にこの問題解決の示唆を頼んだ。全く希望がないとは考えたくなかったのだ。
「物理的に人間の身体を他の物質に変化させてしまうNEXTは沢山いる。その最たるものが折紙サイクロンのシェイプ・シフティングだけれど、この場合は多少違う。ただ予想出来ることはある」
 斎藤はベンに物凄く遠回しに解説した。
「私だってこんな風にタイガーを失うなんて嫌だよ。タイガーの装備今やっとリニューアルしてお披露目できるって時なのに。ライアンの装備を開発するように言われて一時中断してたけどさ、隙を見て折を見て開発は進めてた。絶対タイガーは復帰するってそう信じてたからさ。本当のセカンドバージョンの装備、タイガーにまだ一度も着せてないんだよ。全く本当に手ばかりかけて」
「そこはどうでもいいからさっきの続きを言ってくれよ。まだ希望はあるってことなんだろ? 何を予想してんだい」
 斎藤は折角装備の話が出来ると思ったのにと少し不満そうだったが、タイガーの問題の方が先かなと話を元に戻した。
「物質転換系NEXTと同じだとまず仮定するよ。物質転換系NEXTには二種類あって、折紙サイクロンのように自分自身を変化させるタイプと、何もないところから合成して作り出すタイプがある。私の予想ではこの「超個体化」能力っていうのはこの複合型だと思うんだ」
「複合型ってなんだ」
 ベンの質問に斎藤はこう答えた。
「タイガーの身体を構成しているものを組み替えて桜の花びらという別のものに置き換えた。分解再構成ってやつだね。これは折紙サイクロンを筆頭に物質転換系NEXT、所謂変身する系列のNEXTの基本形だ。ただダイヤ野郎の事を覚えてるかい?」
「ダイヤ野郎?」
 ベンが首を傾げる。それからはたと思い当たった。
「ああ、あの。ダイヤモンドで身体を硬化させた奴だな」
「そう。彼はその珍しい複合型なんだ。滅多にないんだけど。彼がタイガーとバーナビーにグッドラックモードを食らったときどうなった? 外郭に装備していた形になったダイヤモンドが破壊されて中身がむき出しになったよね。彼はそのダイヤモンドの外郭をどうやって作り出しているんだと思う?」
「自分の身体の一部を変化させてるとかじゃないのか?」
「だったらあんな風に砕かれたら、その分自分の身体の体積が減らなきゃ奇怪しいじゃないか。でも彼はダイヤモンドの分だけ目減りなんかしてなかった。つまりあの外郭は、別のところから持ってきた物質を自分の身体の表面上でダイヤモンドに変化させていたものだと考えられる。何もないところで直ぐにダイヤモンドを纏えたところから多分材料は酸素や窒素、空気中から得てると考えていいだろう。そしてNEXTが切れた時、えーと能力を解除したときそのダイヤモンドは跡形もなく消えた。元に戻ったと考えられるけれど、彼のダイヤモンドに変化する能力は本物だという。もっと緻密に解析すれば本物のダイヤモンドとの成分の差異を見つけられるだろうけれど、大切なのはそこじゃない。つまりダイヤモンドの体積分、幾分かの自分の皮膚や汗なんかも使っているだろうけれど大半は別のところから変化させるものの材料を得ているということだ。この超個体化能力も恐らくそうだろう。本人の身体を分解し、別のものに再構築するとき全て人体を分解した材料から構成されているとは考えにくい。むしろ分解は出来ても花びらに構築した段階で使えないものは分解したまま捨ててるんじゃないかと思う。あの形になっているのはタイガーの全てを使った訳じゃない。実際花びらの形になっていた時の大半は全くタイガーの身体とは関係ない何かで構築されたと考えた方が理にかなってるんだ。では使われずに消えた部分は何処に行ったかっていうとそれはNEXTの七不思議で、恐らく大気中――シュテルンビルトの空気か何かに分解されて今でも存在してるんじゃないかと思うんだよ。それに燃えてしまった花びらも炭化したけれど、花びらを構成している成分が地球上から消え失せてしまったという訳じゃない。形を変えて、それこそ炭や煙のような何かに変化しただけで、未だにこの地球上に存在していると考えていい。私もタイガーは死んでないと思う」
「つまりどういうことなんだよ」
 どうしたら虎徹を元に戻せるんだ、どうすればいいんだ、何か俺たちにできることはねぇのかいとベンは先を急がせる。
だがそこで斎藤は目を瞬いた。
「私もNEXTの専門家って訳じゃないんだから解答を持たないよ。ただこの超個体化能力って奴でタイガーが姿を変えた、その状態のものが無くなってしまってもタイガー自身が死んだわけじゃない。けどNEXTの解除の仕方は判らないんだよ。これはNEXT本人にしか判らない類のものなんじゃないのかな。ただ科学者としての考えで述べると、タイガーを再構築する材料を燃えてしまった分だけ集めれば元に戻る可能性が高いんだよ。ただちょっと危惧してることがあるんだ。群体系というか分身のNEXTっていうのが居るんだけどね、三人とか四人とか自分を分身させられるっていうその能力者、その分身の中に本物が居るんだけどこの分身NEXTって、本体というか――核が存在してて、それを起点に戻るっていうのが一般的なんだ。彼は確かその起点となる分身をリーダーって呼んでた。でねここからが問題なんだけど、リーダー以外の分身がもし殺されたとしても問題ないんだけれど、そのリーダーが殺されるとアウトなんだそうだ。だから普段リーダーは危ないことをせずに遠くで待機していて、他の分身がそのなんていったらいいか危険な作業に従事するっていう、そういうNEXTが」
「それだ!」
 ベンは身を乗り出した。
「そのなんだ、核みたいな花びらがあるんじゃねえのか? そいつを見つけ出してそのなんだな、人間の身体一つ分再構築できるだけの材料を集めたら虎徹は復活――」
「むしろ私はそうじゃないといいなって思ってるよ」
 斎藤はベンに言った。
「超個体化の場合分身と考えるには数が多すぎる。だから私は核みたいなのはなくて一つが万事だと信じてるからこそタイガーが生きてるって思ってる。でもさ、もしもだよ? その分身NEXTみたいにリーダーとなる核があるんだとしたらむしろタイガーのその核、あの十七分署で燃えてしまった可能性の方が高くないか? もしそうだったら本当にアウトだ。だから私はバーナビーにはちょっといいあぐねてたんだよ」
 だって君とかタイガーみたいに単純だったらすわ問題解決って直ぐに希望を持って元気になるだろうけど、バーナビーは私と一緒で絶対最悪の方を先に考え付いちゃうもん。
「う、あ……」
 ベンも喜びの余り椅子から浮かしていた腰をすとんとまた椅子に戻してしまった。
もし分身のNEXTと同じで、核が――決して失ってはならない花びらがあったとしたら……?
「うう、言えない……、司法局にも――、いきなり死亡判定が出ちまう――」
「だろ?」
 斎藤もどうしたらいいんだろうねえと嘆息した。



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