Novel | ナノ

桜歌 Celebrate Kirsche3(2)


 ワイルドタイガーがまたNEXT被害に遭い、なんと桜の花びらに変じたという報は、事件が起こったのが土曜日であったのもあってか、バーナビーの意中の人が誰かよりも更に早く電撃の如くシュテルンビルト全域に轟いた。
シュテルンビルト市警の電話は何処の分署もパンク状態、司法局への問い合わせは勿論アポロンメディアも一時期回線が麻痺に陥るほどだった。
シュテルンビルトチャンネル、通称Bchでもその話題で持ち切り、次の日、日曜朝にはワイルドタイガーを救出しようとセントラルパークには誇張抜きで何十万という人間が詰めかけた。
 この事態に司法局と警察署は勿論アポロンメディアも対応が追い付かなかった。
司法局にヒーローが招集され、バーナビーが陣頭指揮に立つも、アニエスたちOBCの職員がまず良く判っていなかった。
取り合えずワイルドタイガーと思しき花びらを見つけた者は、最寄りの警察署に届け出るようにと指示される。セントラルパークにいる者は、各々小集団となって花びらを拾い、ゴミ袋いっぱいに詰め込んだのち、中央に集合させる手はずとする。
市民と共にヒーロー達はキッチン用ストックバックを片手に地面に這いつくばって花びらを一枚一枚収集した。
気が遠くなるような作業だったが、そこはそれ人海戦術もあって程なくして一トン以上の花びらが集まった。
勿論その中にはどう考えても桜の花びらとは違う種類の花びらや枯れ葉など、そもそも花びらではないものも大量に混ざっていたがそれは仕方がない。
ただ一見してそれとは違う花びらならばそれ程問題ではなかったのだが、素人どころか多分玄人でも見分けがつかないあるものがネックとなっていた。
そう、アーモンドの花びらである。
同じバラ科サクラ属の落葉高木であるが故にその花は桜と殆ど同じ。
開花時期が桜とは違うのだが、運悪く丁度今はアーモンドの開花時期に当たっており、集められたそれは虎徹が変じた桜の花びらなのか、アーモンドの花びらなのか全く見分けがつかなかった。
「どうすんだこれ……」
 集まった花びらを見て、アントニオが絶句。
バーナビーも事態の深刻さにおくばせて気づき真っ青になった。
「あのさ、不吉な事聞いていいか、とりあえず集めるのはいいとして、このさ、ゴミみたいなもんっつか、余計なもん混ざってる状態で元に戻したらそれはそれで問題じゃねえのか? 嫌だけど俺今すげえ映画の「蠅男」思い出してんだけど」
 アントニオが容赦なく恐ろしいことを言ってきたのだが、バーナビーも内心「遺伝子レベルで融合とかないよな?」と思っていたのもあって答えられない。ただ蒼白な顔をアントニオに向けただけで、アントニオも瞬時に総毛だって口を噤んだ。
 しかしそこは直ぐに解決策が見つかる。
流石シュテルンビルトだとこの時ばかりは本気でここがシュテルンビルトであることにバーナビーは心から感謝した。
NEXTの同胞がそこかしこに溢れる、NEXTと普通人(コモン)が共存する融合都市シュテルビルト。
極めて多くの市民たちが、単なるシュテルンビルト市民としての義務ではなく、ワイルドタイガーというNEXTの同胞を救うために協力してくれていたのだ。
 取り合えずゴミ袋に花びらは詰められていたが、その大量さに息を飲むほど。
そしてそれらを前にして絶句しているバーナビーとアントニオの二人にその朗報を届けてくれたのはネイサンだった。
「大発見よハンサム! NEXTの市民が教えてくれたんだけど、NEXTを発動していると、タイガーの花びらだけ青く輝いて見えるそうよ!」
 NEXTの残滓というものがある。
それを大なり小なり同じNEXTならば感じる力が備わっているのだ。
はたと再び顔を見合わせてバーナビーとアントニオは両方同時にぽんと手を打つ。
「アタシじゃ危険すぎるから、バイソン、アンタに確かめてもらおうと思って来たのよ」というのに意味が飲み込めた。
 NEXTを発動している時に青く見える、NEXTの残滓を感じ取れるというのはつまり、NEXTを発揮していなければ判らないということなのだ。そして実はこの、NEXTを発揮し続けて問題がない、あるいは発揮し続けられる能力者というのは極めて少ない。
 バーナビーは一時間につき五分間しか発動できないという物理制限があるし、ネイサンは発動中常に周りを燃やす危険があり、カリーナも凍らせてしまうのでセントラルパークの植物相に有害だ。パオリンに至っては周りにいる人を感電させる危険があったし、キースはその能力故に花びらだと広範囲に飛び散らせてしまう可能性があって今日は一度も能力を使っていなかった。折紙サイクロンはどうかというと、変身する一瞬だけしか実際はNEXTを感知できないと判った。変身を継続させている状態は恐らくそれほど自分の力を消費していないのだろう。
つまりアントニオだけが周りに被害を出さずに自分が望む限りの能力発動が可能で、「俺の能力が一番役に立つこともあるんだな」と少し嬉しそうだった。
「早速見てください、どうですか?」
「おう!」
 アントニオは直ぐに発動し自分の身体を硬化させる。
そうすると、ゴミ袋の中にまるで星屑のように青い光が浮き上がってくるのが見えた。
「すげえ! マジだ。こう見ると結構少ないけど、どの袋の中にも光ってるのがあるぜ! これが虎徹か、畜生やったな。より分けてやらにゃ」
「本当ですかバイソンさん!」
 関係ないのが九割ぐらいだけどな、後は全部ゴミっつーか外れだぞ。でもこれで結構希望が持てたな!
アントニオにそういわれてバーナビーは安堵のあまり涙ぐんだ。
本気でアントニオに抱き着いてキスしそうになったぐらいだ。
 取り合えず集まった花びらはゴミやら関係ないものも含めて全てセントラルパークに一番近い第十七分署に集められることになった。
その他、セントラルパークだけでも広大だが、その外にまでどうやら飛び散っているらしく、幾枚かはパーク外でも発見されたこともあって、遠くで発見した者は、そこから一番近い分署やアポロンメディア関連施設、司法局関連施設に届けるようやっと体制が整った。
 やがて暫くすると第十七分署に勤務するNEXTで、ワイルドタイガーより分け作業ができるNEXTが選抜され、市民の方からもより分け担当のNEXTが募集される。ロックバイソンがその陣頭指揮に当たることとなり、バーナビーたち探索班と分けることになった。
 素直にバーナビーはアントニオに感謝し、虎徹を関係ないものからより分ける作業を彼に託した。
「勿論だ、力が許す限りより分けてやる。だからお前らはなんとしても虎徹を全部見つけてやってくれ」
 バーナビーは勿論ですと力強く頷いた。



[ 258/282 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
【Novel List TOP】
Site Top
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -