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SPLASH!〜人魚のいる水族館〜(2)

TIGER&BUNNY
【SPLASH!〜人魚のいる水族館〜】
The aquarium where a mermaid is.
CHARTREUSE.M
The work in the 2014 fiscal year.

SPLASH1

 闇の海原を捜索して最初に見つかったのはワイルドタイガーのヒーロースーツだった。
それは海中でばらばらに分解し、波間を7つのパーツに分かれて漂っていた。
夜間を通じてヒーローたちも軍や警察と共に行方不明者の捜索に当たったが、誰一人見つけることは出来なかった。
バーナビーは傍から見ても判る程動揺しており、ワイルドタイガーのヒーロースーツが見つかったと知らせを受けたとき、ヒーロースーツだけなんですかと憚りなくPDAに絶叫していた。
ロックバイソンがそんなバーナビーの肩を叩く。慰めるつもりだったのかも知れないが、彼もまた何もいう事が出来なかった。
最悪の事態が想定されたが、明け方近くになってシュテルンビルト市警から一本の電話が入って現場は騒然となる。
マディソン・グラハムが、埠頭で発見されたというのだ。
彼女に外傷は全くなかったが、昏倒しているということ、意識が今も戻っていないという事、彼女は埠頭最寄の病院に収容されており、診察の結果命に別状ないことなどが捜索隊に知らされた。
 捜索は一端打ち切りとなった。
密輸犯は暫定的にシュテルンビルト第二十七分署と三十一分署に分けて収監され、乗客はシュテルンビルトにただ一人の例外もなく上陸させられた。
マディソンによって幻獣化された哀れな犠牲者――密輸品となっていた幻獣たちは、シュテルンビルトの動物園や水族館にこれもまた分けて輸送された。
 残念なことだが、と軍と警察を一環して指揮していたノーマン大尉はヒーローたちに最悪の事実を告げた。
「恐らくワイルドタイガーを含めて行方不明者280人は全て幻獣化されてしまった可能性がある。軍の者や一部裕福層の者は身体にトレーサーをつけていたりPDAを装備している為衛星で補足することが出来るのだが、彼らは今海を高速で移動している」
「そんな」
 バーナビー自身もそうだと思っていたが考えたくなかった。
でもそうだとすると一つだけ確信したことがある。
マディソンを埠頭に送り届けたのは虎徹だ。彼女が身を投げた時、恐らくワイルドタイガーなら彼女を救おうとその後を追った筈。そして彼女の最も間近で彼女のNEXTを受け幻獣と化したのなら、虎徹はそれこそ自分の命に代えても彼女を助けたろうと思う。
 程なく斉藤から連絡が入る。
PDAの反応が時折キャッチできるというのだ。
案の定その反応は海中からで、時々虎徹が浮上するのか海面近くに現れたときだけ信号を発しているのだろうという。
警察と軍の方も程なく同じように海中から発信されるPDAやトレーサーの反応を幾つも捉えたと連絡してきた。その反応は一様に外海を目指していた。
何の作用か、彼らはみな遠く遥か太平洋を目指して移動を開始していたのだ。
 虎徹さんも? と聞くと斉藤はそうとしか思えないと言った。
何故、帰ってこないのだろう。彼の意識は今どうなっているのだろう? どうして彼らは外海を目指すのだろう。
 そうしてバーナビーはあの密輸犯の一人のおぞましい変身を思い出す。
まるでクトゥルー神話のように見るも無残な化け物に成り果てて彼は海へ去った。虎徹もそうではないとどうして言い切れるだろう?
「よくって半魚人だろうねえ」と斉藤が事も無げに言うのが恨めしい。
なんにしても幻獣化した人々は陸地に戻る気はないらしい。なんらかの海洋生物に変化して、今は人であったこともその思考も忘れ果てて外洋を目指している。
 後は海洋警察に任せるしかない。
そう言われて臍を噛んだ。
ああ、何故自分は虎徹を一人行かせてしまったろう。


 PDAからの信号やトレーサーを追跡して一週間。
しかしそれを捕獲したのはシュテルンビルトを出立した海洋警察でも海軍でもなく、極普通の一般漁船、それも定置網漁をしていた民間船の一隻だった。
 それを引き上げた時、これまた珍しい極彩色の巨大魚がかかったもんだとみんなのんびりと思ったという。
だが次の瞬間皆の顔は恐怖に引きつった。
 ぱしゃんという軽い水音の後、物凄いばん!という甲板を叩く音。
メタリックブルーに輝く不可思議な深いグリーンから黄金色にまで様々に色を変えていく美しい鱗。つやつやとしたナイロン光沢を放つ濡れた黒髪。
これがグラマラスな女性体であったら、漁師の当惑も多少緩和されたかも知れないが、釣り上げられたのは見事な流線型の肢体を描く、男性体の人魚だったからだ。
 手の指と指の間にある皮膜のような水かき、長く伸びた爪は先の方に行くほど真紅になっており、瞳は金色で縦に亀裂が入っていた。
歯は鋭利に尖っていて、むき出して威嚇したそれは今にも食いつかれそうだった。
首筋には3本の線状のえらが見て取れて、男性体だということを除けば、文献にある通りの人魚そのものだったからである。
ただちに連絡を受けた海上警察が駆けつけ、定置網にかかった全ての魚を調べたところ、その人魚の他にも魚人と思わしきものが数体、なんだかわからない異形のモノが数体、発見された。
 彼らは秘密裏にシュテルンビルトの水族館に移送され、やがて数時間後にバーナビーは虎徹が見つかったと軍から連絡を受け取ったのだった。




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