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運命の青いNEXT(10)



 トレーニングセンターに行くと、パオリンとイワンが談笑しながらトレーニングに励んでいた。
「あ、ブルーローズ、おはよう! 昨日大丈夫だった?」
「おかげさまで」
 トレーニングウェアに着替えてトレーニングルームに入ると二人が踏んでいたトレッドミルから降りてカリーナの方にやってくる。
イワンが「バーナビーさんがまだ気づかないみたいで、タイガーさんが凄く心配してたんですよ」と開口一番言った。
 カリーナはむっとする。
私はどうでもいいのかと思った次の瞬間、パオリンの発言に頬を染めた。
「そうそう。ブルーローズの方は大丈夫なんだろうかって。バーナビーがこんな風なら彼女もそうなるんじゃないかって凄く心配してたんだよ。自宅の番号聞いておけば良かった、PDAで連絡取ったら駄目かなとか、ね?」
 パオリンがイワンに同意を求めるとイワンはうんうんと頷いた。
「タイガーさん、相当ショックだったみたいで。バーナビーさんはともかく、女の子を酷い目に遭わせてしまったって凄く心配してました・・・」
「そ、そうなんだ」
 メール、メールアドレス教えよう。やった、タイガーのアドレスゲット!と思ったところでカリーナは頭痛に目が眩んだ。
「うっ・・・」

 ちょっとやめてよ、ハンサム。
――虎徹さん・・・、僕の事なんかどうでもいいんだ――。

ブルーローズばっかり、ブルーローズばっかり心配している。

その思考は点滅するようにぐるぐるとカリーナの頭を駆け巡って眩暈を起こさせる。

 あんた少し精神弱すぎない?!

この男、タイガーの事に関してはかなり女々しいところがあるなあとは思っていたが本当に女々しい!とカリーナは思った。

――虎徹さん、僕の事は心配――――。
 してないわけが無いでしょ!

カリーナは頭の中で怒鳴った。
大体良く考えてみたら、今タイガーが何処に居るかっていったらアンタの傍じゃないの? また病院に行ってアンタの横で手を握ってんじゃないの。そうだわ、そう、そうに違いない。むかつく。

――そうでしょうか・・・。

 頭の中でやり取りしているのが不審に思われないだろうかとカリーナは思っていたが、特にイワンもパオリンも気づかないようで続けて言った。
「タイガーさん、トレセンに顔を出したんですけどなんかもう一度病院に帰るって」
「そうそう。凄く急いでたよね」
 それからパオリンが「あっ」と今しがた気づいたように声をあげて手を打った。
「ブルーローズに会ったら俺に連絡してって言ってたんだ。ブルーローズ今連絡してよ」
 ほほほほんとに?
カリーナは震える手でPDAを立ち上げようとしてぐっと頭痛に悲鳴を飲み込む。
バーナビーの思考が千々に乱れてカリーナの思考を妨げる。それは差し込むような痛みで思わず苦痛に呻いた。

 虎徹さん。傍にいて欲しい。やっぱり女の子は特だそれだけで心配される。僕なんかどうでもいいんだ。まさかブルーローズが好き? そうかも知れない。元々虎徹さんは女性が好き。結婚してた。自分で自分がいやだ。こんな風に考えたくない。気持ち悪い。違うそうじゃない!どうしようおかしい、こんなの僕じゃない。ブルーローズが羨ましい。

――だって、彼女は堂々と愛してると言えるのだから。

 ちょ、ハンサム!

その瞬間の衝撃をどうカリーナは言い表していいのか判らなかった。
バーナビーの思考を受け取りながら、カリーナ自身も考えていた事。

 タイガーが自分の事を考えてくれている。バーナビーよりも大切に思っている? 今!私の事を気にかけている。でもそう思いながら握っているのはハンサムの手なんだわ。矛盾、都合のいい願望。でも好き、私にもチャンスがある。だってタイガーは奥さんを愛したもの女性が好きなのよ。本当はどうなの? ハンサムの事はどう思っているの? 好き嫌い? 好きに決まってる。

 バーナビーの事を含めて、タイガーの気持ちが知りたい。


 すっと痛みが退いた。
あー、助かった・・・。ハンサムには悪いけど、もう我慢限界だった。アイツもう、考えてる事が滅茶苦茶なのよ! ちょっとはこっちの負担を考えて欲しいわ。確かに男っていうのはハンデかと想うのだけれど――――。

「バニー、気がついたか?」
 突然そう話しかけられた。
頭痛の余りぎゅっと瞑っていた目を開けて、ごしごしと右拳で瞼を擦る。
そして誰かが左手をぎゅっと握り締めている事に気づくのだ。でもって私いつ横になったんだっけ。
あれ? 仮眠室ってこんな毛布だったっけ? いつ模様替えしたんだろうと思ってカリーナは視界がぼんやりとして全然焦点が定まらないので眉間に皺を寄せた。 なにこれ、視界が悪すぎる。
そうこうしているとなにやら頬に触れる大きな手。
えっ、何? と想う間もなく、何かが顔に触れた。金属のフレームのようなものかと思ってカリーナは突然クリアになった視界に絶句するのだ。
「ほい、眼鏡、バニーちゃん。 どう? 大丈夫か? 俺が誰か判る?」
 タイガー! っていうかええ、なんで?!
悲鳴を上げなかったのは奇跡的だった。いやむしろカリーナは驚きのあまり固まった。声も出ない。
「どんなNEXTなのか良く判らないのもあるし、俺がお前についてる事になってさ・・・。病院だと身動き取れないしまた倒れた時困るんでここ俺の自宅な? バニーちゃんちでもいいけど、今日は俺んちで我慢してくれ。着替えはとりあえず俺のシャツでも何でも好きに使ってくれて構わないから・・・。バニー?」
 手を見て身体を抱きしめる。
恐る恐る振り返って、窓ガラスに映る自分の顔をまじまじと見る。
ああ、間違いない。今私、ハンサムになっちゃってる!

 完全に思考がチェンジして、互いの身体に恐らく入れ替わってしまったのだ! 何故、どうして?
慌てふためき手を目の前に持ち上げてそこで硬直。
 虎徹が心底怪訝そうな顔をした。
「バニー?」



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