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運命の青いNEXT(7)



――もう判ってますよね。
ええ、判ってるわ。
 心の中でカリーナはバーナビーと会話していた。
カリーナとバーナビー。二人は自分たちがかけられたNEXTがなんなのか今少しは理解していた。
少なくともこの状況だけは判った。
 そう、バーナビーの意識がカリーナの中に入っているのだ。
――何時気づきました?
 アンタが私の頭の中で叫んで頭痛起こさせた時からよ。
――意外に順応性あるんだ。
 残念でした。女性の方がそういった順応力高いのよ? 学校で習わなかった? あと私の方が若いし。
――はいはい。
 それよりとカリーナは心の中で言った。
 アンタ大丈夫なの、ハンサム。
――大丈夫とは?
 アンタ今意識ないんでしょ? これ、残った体のほう大丈夫なの?
――さあ?
 さあってアンタね・・・。
――でもしょうがないですし。どうにもならないですし。多分大丈夫ですよ。自分の身体に意識を戻す方法は良く判らないですけど、なんか昨日は自然に戻りましたし。
 ふーん。 まあなんでもいいわ。 とっとと出て行って。
――僕だって好きで入ってるんじゃないですよ。
 じゃあ出て行って。
――だから出て行き方が判らないんですって。
 あーやだやだ、ホントにやだ。
――僕だって嫌ですよ・・・。

 昨夜、二人は強制的に入院させられる事になった。
カリーナの意識がまた失われたと聞いてバーナビーは首を少し傾げる。そしてその時判ってしまったのだ。
心の中に招かねざる訪問者がいるということに。
 虎徹が簡易ベッドを借りてきて横に設置したあと、二人ともベッドの上で食事を取った。
入院食とは言え、バーナビーは健康体だったので普通食。虎徹も同じものを病院から支給して貰った。
「なんか俺のせいでごめんな」
「いえ・・・・・・」
 バーナビーは心中とても嬉しかった。
虎徹さんが傍に居てくれる。何時でも、そうずっと。
誰よりも判ってくれている。僕の欠けたパーツを虎徹さんが一つずつ埋めてくれている。好きだなあ、やっぱり好きだ。
 雛鳥が最初に観たものを親と慕うように、虎徹が一番最初に自分に接近してくれてきた人だから懐いてるだけだろうか。この気持も単なる錯覚なのだろうか。
そう自問自答しても答えは出ない。ああでも何故だろう、今日は素直に思える。虎徹さんが好きだ。

―― サイテー。このホモ野郎。タイガーが可哀想でしょ。

 びくっ。
バーナビーは飲んでいたスープを吹き出しそうになってしまった。
きょろきょろと辺りを見回して虎徹にどうしたと聞かれる。
バーナビーは動揺しながらも虎徹には悟られないように「大丈夫です」と笑顔を返した。
その後心の中で、平常心、平常心。 虎徹さんにこれが知られたら、嫌われる ドンビキされる。この状況を虎徹さんに知られたくない。嫌だと考えると、何故か「それは同意」という声が聞こえた。
その後終わった食事のトレイを返し病院の就寝時間は午後8時なので直ぐに横になった。
虎徹は「こんなに早く寝れるわけないよな」と言っていたくせに、5分もしないうちに寝息をたてているのが聞こえて来た。
そう、虎徹さんは寝つきがいい。 いつも僕より先に寝てしまう。まあでも彼の寝顔が満喫できるのだからそれはそれでいいのだけれど。
そう考えた瞬間、今まで沈黙していたカリーナが心の中で答えた。

――ハンサム、この変態。
 ブルーローズさん、あなたですね。
――ご明察。この・・・ホモ野郎。
 ホモ野郎とは心外です。

 バーナビーはベッドに横になってリラックスした姿勢を保ちながら深呼吸。
両手を胸の辺りで組み合わせて目を瞑り、自分の内なる場所に居座っているカリーナを強くイメージした。
心の中で仏頂面した彼女が再現されると、自分自身も同じようにイメージとして知覚されるようになる。いっその事眠ってしまえばもうちょっと会話が楽になるかもしれないとバーナビーは思った。
イメージの彼女は俯き加減で、何故かわなわなと身体を震わせていた。

――タイガーは私が守るわ。
 守るって・・・、何故。大体何から?
――アンタからよ!

 バーナビーはぎくっとなった。

 ちょっとあなたまさか・・・見ましたね! なんて人だ、プライバシーの侵害だ!
――アンタだって私の夢見たでしょう!
 カリーナが絶叫する。
痛い!とバーナビーは強烈な頭痛にびくりと身体を跳ねさせた。 たまらない、他人の精神波がダイレクトに脳をシェイクしている。

――大体、アンタの夢、生々しすぎるのよ! おかしいよ、たっ、タイガーにあんなことやそんなことや・・・

 バーナビーは鼻でせせら笑った。

 ハッ、あなたの方こそ現実見たらどうですか? あなたもう18歳でしょう? バカなんじゃないですか? どんな少女趣味・・・。その癖虎徹さんを紐にだなんて考える事が根底から下劣なんですよ。
――あんたのほうが下劣でしょ!
 私は見たんだから!とカリーナが喚いた。

バーナビーの心に飛ばされたカリーナは、目の前に展開するバーナビーの願望に心底動揺した。
まさかよもや、――確かにそうだろう。人が愛し合うということのその先にセックスがあるのは当然だ。しかし男二人の痴態なんか観たくも無い。更に言うならバーナビーのそれはかなり具体的だった。シチュエーションも場所も今のバーナビーの自宅だろう。
一緒に飲みながら他愛もない話をし、バーナビーは酒を虎徹に勧める。それを虎徹が断わる筈もなく「こんないい酒貰っちまっていいのかなあ」とかなんとか。
いいですよ、いいですよと勧めるバーナビーの心のうちを虎徹は知らない。上機嫌で飲みに飲んで酔い潰れ、安心してバーナビーの傍らで寝息を立て始める。
そんな彼を計画通りとベッドに運んで、朦朧としている彼を組み敷くのだ。

 やめて、よしてイヤ! キャーッ!

カリーナの悲鳴と困惑を他所に、バーナビーがその手を止める事はなく、虎徹の抵抗も虚しく朝。
しおしおとうな垂れて、こんな酷い事をしてごめんなさい。でも貴方の事が前からずっと好きだった。虎徹さん貴方のことが好きだったんです。一度きりでいいから貴方と関係を持ちたかった。

 バカハンサム、これは強姦っていうのよ! そんな謝罪で許されて堪るか! うわああん。

カリーナがそう絶叫しバーナビーを罵るのに虎徹は違うのだ。
「寂しかったんだな。俺でよければ傍に居るよ。こんなのどってことない、俺もお前が好きだよ」
 バーナビーが後ろで不自然に手を回しているのがカリーナには見えた。
背中の後ろで拳を握り締めてよしっ、よしっとガッツポーズしているのが。

 イイヤアアアア! タイガー、騙されないで! っていうかありえないから、ハンサムッ!

というところまで見てバーナビーが自分の夢を――願望をログアウトさせたらしい。
 見〜た〜な〜 という重低音が響き渡って、その後二人の精神は、バーナビーの身体の中、正確には脳の中で向き合っていたのだった。

 最低、ハンサム
――願望ですよ。現実でやるわけないじゃないですか。大体あんな風に許されるわけがない。
 考えるだけでも犯罪よ!
――無茶言うなあ・・・。あなただって結構凄い事を考えていたじゃないですか。なんですかあの家。虎徹さんを紐にしてどうするんですか。自分が養う? しかも子供まで作って・・・。
 赤ちゃん欲しいんだもん! 普通でしょ!
――その割りに無駄に虎徹さんを脱がせてましたよね。踏んだりとか・・・。後あれなんていうんですか? コスチュームプレイ? あなたの女王様はポーズかと思ってたんですけど、案外素なんじゃないかって思いましたよ。いやあもう凄い結婚式でしたね。何処のテーマパークの宣伝だって・・・。僕の扱い最後まで脇でしたし、本当にありがとうございました。 後、外でのメイクラブはどういい繕おうと 青姦です。
 黙んなさいよッ、最低最低最低! ハンサム最低!
――どっちが!

 その後二人で罵りあう事になってしまい、バーナビーは自分の頭の中でやるのはずるい、頭痛を引き受けてるのは僕じゃないかと文句を言うと、カリーナも怒鳴り疲れたのか「もう互いの願望に関してはノータッチにしよう」と暗に言い争いをやめたいと言って来た。



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