Novel | ナノ

運命の青いNEXT(2)

TIGER&BUNNY
【運命の青いNEXT】We are meant to be together
CHARTREUSE.M
The work in the 2012 fiscal year.

THREAD.1

 カリーナが目覚めたのは病院の個室だった。
暫くぼんやりと天井を眺め、はっとして起き上がる。
両手を目の前にもってきて、指を動かしてみた。じっと見つめてそれから自分の身体を抱きしめる。
カリーナは直ぐに思い出した。
タイガーを庇って自分はあのサイコ系NEXTの前に飛び出してしまったのだ。どうして飛び出してしまったのかというともう咄嗟にとしか言い様が無い。思考よりも早く体が動いてしまったのだから仕方がない。なんにしてもカリーナは自分の身体を隅々まで自分で確かめてほっと安堵の息を吐いた。
大丈夫だった。 ああ、大丈夫だった。 そしてタイガーは大丈夫だろうか?
 自分以外病室に誰も居なかった心細さもあってベッドからするりと抜け出す。
いつの間にか病院着に着替えさせられていてどうなったのだ、誰が着替えさせてくれたのかと考えてまさかタイガー?と真っ赤になる。
でもそんなわけがなくて、入り口で自分の母親と衝突しそうになった。
「まああ、カリーナ! 良かった大丈夫なのね」
「ママ・・・」
 えっ、ママが来るぐらい大事なの? 何か私凄く心配かけた?と言ったらカリーナの母 クリスティーナはいいえと首を横に振った。
「連絡があったのは貴女が倒れた直後だけど、病院に収容されて直ぐ特に問題ないって診断が降りて・・・。あのNEXT他人を金縛りにする能力者らしいって自分で」
「タイガーは?」
「ワイルドタイガー?」
 クリスティーナは首を捻った。
「ああ、バーナビーについてると思うわよ。あちらは同じアポロンさんなんでしょ?」
「・・・・・・」
 ああ、そう・・・。
なんだかムッとしてしまい、カリーナは憮然と母に言った。
「着替える。 でもって帰る」
 結局の所それは我侭だ。
自分とバーナビー一緒に虎徹を庇ったのに、虎徹が寄り添うのはバーナビーなのだ。
ええ、判ってますとも。私の所属はタイタンインダストリーでアポロンメディアとはヒーロー事業部同士ライバル会社だ。まあタイタンインダストリーは基本、シュテルンビルトの重工業を掌握する会社で業種的には特に利益が衝突する事もないし、自分が所属する芸能課&ヒーロー事業部は広報としてはアポロンと繋がってるけども。
それにバーナビーには今保護者が誰も居ない。成人してるから保護者も何もあったもんじゃないだろうけれど、肉親と呼べる相手が居ないのだ。
特に一昨年、義父同然であったアルバート・マーベリックが逮捕され、後にルナティックに消されてしまってからは。
 カリーナはそういった人生における、真実バーナビーのような孤独を知らない。
ただ、想像は出来る。 小説や映画、時折ニュースで。そういった身寄りがない心もとなさを想像することは出来る。だからバーナビーが唯一肉親に代わる絆として虎徹を頼るのは判る。 理解しなければならないだろうと彼のペナルティを考える。
「ちょっとカリーナ、診察受けてから帰らないと」
 勝手に着替えちゃっていいのかしら・・・とクリスティーナは頬に手を当てて溜息をついているが、カリーナはさっさと着替えていつもの帽子を被り部屋の出入り口脇に申し訳程度に備え付けてある洗面台の鏡を覗き込んで髪の毛を整える。クリスティーナが困ったように室内のインターフォンで娘の状況を担当医に連絡し、一度診察室に寄るように言われたようで、「ああ、はい・・・」と頷いているのが鏡越しに見えた。
「私を着替えさせてくれたのはママ?」
「脱がせたのは私じゃなくて病院のスタッフよ。看護婦さんたちね」
 ふーんと言ってカリーナは「じゃあ、私のコスチュームとタイタンのスタッフの皆は?」と聞く。
クリスティーナは肩を軽く竦め、今から30分ぐらい前まで心配そうについてたのよ。でも病院の先生が命に別状はないし多分直ぐに目覚めるだろうから私だけ居ればいいってスタッフを帰しちゃったのよ。まあ、病院としては迷惑でしょうからね。
 あれよあれ、アレが邪魔というか目立ちすぎるのよ。アポロンの方も直ぐに撤収してたわよ。
アレって何よ・・・とカリーナが首を傾げ直ぐに思い当たった。
「ああ・・・、トランスポーターね」
「そうそれよ。 特に貴女のトレーラーっていうのかな、あれ目立ちすぎちゃって」
 痛車っていうの?とクリスティーナがきょとんと口に乗せてカリーナは苛ッとした。
「仮にも娘のトランスポーターをそんな風に言わないでよ」
「あら」
 でもあれ相当目立つし隠せないし、ちょっと恥ずかしいわよねえ。 私は衣装は割合似合ってるんじゃないかなって思ってるんだけどパパはね・・・。
と言いかけたところでクリスティーナはびっくりしたように立ちすくむ。
長く白い病院の廊下の向こう側から、身体にぴったりとしたアンダースーツ姿の男が駆け寄ってくるからだ。
一瞬呆けたクリスティーナは、その男がつけるアイパッチを見てそれがワイルドタイガーだと察した。
 まあまあまあ!
「ブルーローズ!」
 カリーナは呆気にとられて虎徹が駆け寄ってくるのをただ立ちすくんで見ていたが、クリスティーナが代わりに頬に手を当てて「まあ」と叫んだ。
「ワイルドタイガーさん? ああーなんてことでしょう! すみません、ブルーローズの母です。 何時も娘がお世話になりまして」
 あ、はあ? まあ。
虎徹が右手で後ろ頭を抑えながらはあと頭を下げる。一瞬意味が判らなかったのだろう。硬直するカリーナに、「お前のお母さん?」と聞いた。
「えっ、あっ、そう」
 瞬時の金縛りが解けて、カリーナはがくがくと頷いた。
「ブルーローズの目が覚めたって聞いて・・・。悪かったな、俺のミスだ。バニーに散々注意されてたのに迂闊だったよ。 お前大丈夫か? 何処か可怪しいところは?」
 ないわよ。
カリーナは憮然と言う。 それから横で年甲斐もなくはしゃいでいる母親の横腹をどついた。
「ちょっとお。 タイガーと仕事の話するから、先に診察室行っててよ」
 ええ〜? お母さんヒーローと話してみたいわ。ワイルドタイガーっていったらお母さんがまだシュテルンビルトに来たばかりの頃大人気だったのよ! ああー、やっぱり素敵だわ。それに細身でいらっしゃるんですね! まあまあまあ・・・。
「つーか、今でも人気だし――」
 カリーナが憮然と呟いて、ああもういいから先にいってて! タイガーと二人にしてと母親をやっとの事で追い払った。
虎徹がきょとんと、名残惜しそうに振り返りながら廊下向こうに遠ざかるクリスティーナの背中を見て、カリーナに「いいの?」と言った。
「いいの」
 あれで結構ミーハーなんだから。 全く・・・。口の中で悪態をつき、カリーナは虎徹を見上げた。


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