琥珀を捕む夢(21) NC1972.そして私は琥珀を捕み かっちんかっちん時計の針が時間を刻む。 さらさらさらさら砂時計が滑り落ちる。 長い夢を見ていたよう。 そうあれは夢だったのかしら? いいえきっとそう。 ――貴方はどんな時でもヒーローで居て・・・・・・。 私は優しく笑えたろうか? 私の声は震えて居なかったろうか。 少し格好良く言えた? 本当は傍に居てと言いたかった。 うん、いいえ、そう。 素晴らしく美しい夢だった。 終わりの無いずっと永遠へと続く道を旅するそんな夢。 好きだった、愛していた、多分いいえきっとずっと。 愛してる、愛してる。 「時間です」 友恵は薄っすらと目を開けて、ベッドの傍らに立ち自分を見つめる医師の姿を見た。 彼はとても懐かしい笑顔を浮かべていて、優しいその鳶色の瞳で友恵見下ろしている。 そう懐かしいその笑顔で。 村上先生――。 名前をもう思い出せなくなる。 存在も何もかもが希薄になる。 その医師の輪郭は滲んで空間に解け、友恵に深々と頭を下げた。 友恵は微笑む。 先生そうじゃないのよ、私は犠牲を選んだのではない誰の為でもなく私自身の為にこの未来が愛おしかったの。 虎徹君を愛したわ。 夢に見たとおりあの美しい私の琥珀細工のような綺麗な人を。 彼を愛して彼を愛したまま死ぬのなら何も怖く無かった。 ただ置いていく事だけが悲しかったけれど、夢の続きはみんなと一緒に観るわ。 この世界の風となって空となって私の夢の残滓は夜毎人々の夢の中に訪れる。 琥珀細工の私が愛したあの瞳と共にいつまでも。 ふわりと友恵の身体から10歳のあの日、虎徹を見つけた少女が幻のように立ち上がり、骸を背に軽やかに病院の廊下へと駆け出して行った。 医師の姿は完全に空気に溶け、後には琥珀色をした影がゆらゆらと残るばかり。 そしてそれも少女がその間をすり抜けていくと金砂となって消失した。 さらさらと。 黒髪が肩から流れ落ち、かつてない程軽やかに少女は廊下を駆けて行く。 そこへ長身痩躯の男が必死の形相で自分に向かって走ってきた。 しかし彼はすれ違う少女には気づかない。 「友恵・・・、友恵――!」 無意識なのだろう、その唇から零れる音は愛しい人の名前だろうか。 足元を見ると、彼の夢の欠片が、琥珀の涙となってそこここに零れ落ちていた。 ああ、こんなところにもあった。 ちゃんと大切に保管しておかなくちゃね。 少女はそれを拾い、自分のポケットに仕舞う。 それからその男の背を見送った。 小首を傾げて彼はその人に会えただろうかと思う。 会えたらいいね、綺麗な琥珀色の瞳をした男の人だった。 貴方の夢に、会えたらいいね。 [mokuji] [しおりを挟む] Site Top |