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星の棲み処(5)




 ジェイクの死因は放映されたとおり原因が明らかなので、司法検視ではなく行政検視という区分に入る。
遺体は損傷が激しかったが、なんとか人の形になるように整えられて、警察署の死体安置所に保管されていた。
凍らされていたので、腐敗臭はしなかったが、その代わり焼け焦げた肉の臭いがした。
バーナビーと一緒に、司法局ヒーロー管理官兼裁判官のユーリ・ペトロフも同席していた。
彼は顔色一つ変えずにジェイクの死体を検分した後、検視官が差し出した書類にさらさらとサインをした。
「バーナビーさんどうですか。あなたの親の仇だそうですね、この男は」
「ええ」
 特に感慨もなく、バーナビーは黒焦げて顔の判別もつかなくなった、かつて人間だった物体を見下ろしていた。
「腕に・・・」
「腕?」
「ウロボロスの刺青があるのかどうかを確認したかったのですが、無理でした」
 その掻き集められた腕は、皮膚どころか肉もなかった。
炭化して萎縮し、骨と同じぐらいの厚みしかない。
「それは残念でしたね・・・」
 ユーリは小さくバーナビーに頭を下げた。
「いえ、、、」
バーナビーも会釈を返す。
検視が済んだので、バーナビーとユーリは警察署を後にするため、一緒に並んで出口へと向かった。
バーナビーはユーリの隣で暫く思案していたが、自動ドアの手前でユーリを呼び止めた。
「あの、管理官」
「なにか」
 ユーリは振り返った。
ちょっといい淀んだが、バーナビーは意を決したようにユーリに言った。
「あの、お願いがあるのですが、ワイルドタイガーの経歴詳細を見る事は出来ないでしょうか」
「それは、アポロンメディアに提供されている社員資料で検索かけられる筈ですが」
「あ、いえ、そうなんですけど、ワイルドタイガーがアポロンメディアの移籍する前の経歴詳細なんです。
家族とか、なにかそうですね、事故にあったとか」
 ユーリは感情の読めない眼でじっとバーナビーを見つめていたが、それはバーナビーに酷く居心地の悪い思いをさせた。
「つまり貴方は、ワイルドタイガーのプライベート詳細資料を求められていると」
「あっ、でも・・・ ああ、いやそうですね。 まあ家族のことはいいんですが、ちょっと気になる事が」
「気になる事とは」
「ワイルドタイガーはかつてなにか事故に会わなかったでしょうか。それもかなり瀕死の重傷というか、、、生きている方が不思議というか。ああ、勿論それは普通人の話であって、N.E.X.Tだからそこまで重症じゃなかったのかも知れないんですが」
 再びユーリが無機質な眼でバーナビーを見つめてきたが、暫くして口を開いた。
「解りました。司法局にある方で、そちらが気にしているようなデータがもし存在しているようでしたら、
特別に公開しましょう。ところで、それはワイルドタイガーの同意を得ての行為なのですか?」
 バーナビーは暫く逡巡したが、正直に答えた。
「いいえ」
 ユーリがふっと笑ったような気がした。








 ユーリと別れた後、ワイルドタイガーの入退院手続き書類一式を持ってバーナビーは病院を訪れた。
あの婦長さんはいるだろうかと思ったが、勤務中だろうので声をかけるのは躊躇われた。
それにバーナビーは顔バレしているので、当然病院内は騒然となり、結局院長室に通されてしまった。
迷惑だということだろう。
ヒーローたちが退院してからは、特別隔離などの措置が解除されてたので、当然大騒ぎとなってしまった。
忘れていたのは、バーナビーの手落ちだったが、まさかこれほど大騒ぎになるとは思ってもみなかったので、少々取り乱してしまったようだ。
病院内では携帯電話の電源を切るべきだと、唐突に思い出したバーナビーは、携帯を切るために取り出したところ、いいタイミングでメールが来た事を知らせてくれた。
・・・・会社で電話をかけて、会えないかと伝えたロックバイソン――アントニオからの返答だった。
自宅に来いと書いてあったので、この後向かう事にする。
さて、どうするか・・・。
バーナビーは書類に眼を落としながら、まったく違うことを考えていた。








 


 アントニオの自宅は解りにくく、バーナビーは近辺を探し回っていたが、暫くすると目的の人が自分に向かって歩いてくるのが見えた。
どうやら迎えにきたらしい。
「俺の自宅は今とっちらかっててな。話をするんならそこらの喫茶店でもいいだろう」
バーナビーは快く了承して、近場のカフェに入った。
「で、なんだ? 虎徹の事で聞きたいことってのは」
「単刀直入に聞きます。虎徹さんは、あの病院で以前手術を受けませんでしたか」
 アントニオのコーヒーをかき混ぜる手が止まった。
「なんでそう思う?」
「今日入退院の手続きをしてきたのですが、虎徹さんだけ再診なんです。 以前かかったのは5年前ですね」
「ああ、そんなこともあったっけな」
「何故です?」
「何故? とは?」
「どうしてこんな怪我をしたんです? ヒーロー業ではないですよね。 記録に残ってません。
虎徹さんは、ヒーローとしては10年間ベテランで、そんな事故を起こした事は無いんです。
それこそ生死に関わるような事態に陥っていたら、シュテルンビルトでは大ニュースになっていたはずですから。
ヒーローが瀕死だなんて」
「・・・・・」
「ヒーローになる前の事故ならわかるんですが、5年前といったら、虎徹さんは絶頂時の人気ヒーローだったんでしょう?
何があったんです。プライベートで?」
 アントニオが唐突に立ち上がった。
「その話は出来ないな」
「なんでです。 虎徹さんが死んでもいいんですか?」
「なんだと?」
 バーナニーも立ち上がって慌ててアントニオを引き止めた。
「婦長さんがまだ虎徹さんが入院中、僕に話してくれたんです。5年前、瀕死の重傷で運び込まれた患者がいたと。
それが鏑木さんで、息を吹き返したあと、その足で手術室から出て行ったって」
「なんで、そんな話・・・」
 アントニオが狼狽した表情を浮かべた。バーナビーは必死で食い下がった。
「婦長が言ったんです。あれは事故なんかじゃないって。事件だったと。しかも暴行傷害事件です。更に婦長はこうもいってました。あれは、鏑木さんが自殺しようとしたんだって。 解りますか? 自殺しようとしてたって言ったんです」



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