Novel | ナノ

琥珀を捕む夢(6)



 ピピピピピピ。
軽い電子音に友恵は目を覚ます。
「今何時・・・」
 横で虎徹が右腕だけを伸ばしてサイドテーブルを探っている。
その虎徹の肩にキスを落としながら友恵は「おはよう」と呼びかけた。
「もうちょっと寝たい・・・」
「駄目よ虎徹君、時間ギリギリ」
「あー、畜生」
 もさもさと頭を右手で擦るように掻きながらのっそりと起き上がる虎徹。
目が閉じたままの彼の頬に友恵は軽くキスをして、「しゃっきりして、ヒーロー」と言った。
「始末書なんかいつでもいいじゃないか」
「これに懲りたらもう少し穏やかにね」
 本来ヒーローは出動要請がなければ出社しなくてもいい。 上司のベンが大抵の事をやってくれるし虎徹も任せていた。
しかし都市管理システムや公共施設などの破損、シュテルンビルト都市機能に余りに被害を出すような事をしてしまうと司法局から警告がくる。 当たり前といえば当たり前なのだがパワー系N.E.X.T.である虎徹はヒーローの中でもこの頻度が最多だった。
 始末書を書くためだけに出社とか、はあ・・・。
虎徹がぶつくさいいながらベッドから出るのを友恵は笑いを含んだ目で追う。
「正義の壊し屋さんですものね」
「――だっ」
 そのあだ名嫌だなァと虎徹はロフトからしょんぼりと降りていった。
それを見送って友恵もさてと伸びをする。 そして階下に降りて朝食を作り始める。 虎徹は朝のシャワーで暫くすると立ち直ったのかシャワー室からハミングが聞こえてきた。
やがて風呂場で着替えてきたのだろう、いつものモスグリーンのワイシャツとスラックスを身につけネクタイを結わえながら虎徹がダイニングテーブルにつき、朝食のハムエッグとサラダを虎徹の前に差し出しながら友恵が言った。
「今日いい夢見ちゃった」
「どんな?」
 トーストを友恵から受け取りながら虎徹が聞く。
「小学生の頃、両親とシュテルンビルトに旅行に来た事があるのよ。 クリスマスでねゴールドステージのセンター街が綺麗だったなあ」
「クリスマスになったら行く?」
 ゴールドステージのセンター街。 ジャスティスタワーでごはんでも食う?と聞くのでそうじゃないてと友恵が首を振る。
「レジェンドと虎徹君が活躍した銀行も見たよ」
 放映見たんだ?と虎徹が聞き、リアルタイムで見たよという。
「そこでね、琥珀を拾ったの」
「琥珀って、宝石の?」
 ?何の話になったんだと虎徹が友恵を見ると、友恵は困ったような顔をして虎徹をじっと眺めているところだった。
目が合ってしまい虎徹は首を傾げる。
「何?」
「虎徹君の瞳がね、琥珀色で素敵だなあっていつも思うの」
「俺は友恵の、鳶色の瞳が好きだよ」
 それ以前に嫌いな所がみつからねぇんだけどどうしようと言うので友恵はくすくすと笑った。
「その琥珀ねえ、中に葉っぱが入ってて、光に透かすとブルーに輝くのよ。 それを探してるおじさんがいて私その人にお探し物はこれですかって聞いたのね。 そしたらああこれだ、コレを失くしてとても困っていたんだと。 凄く喜んでねそれで」
「それで?」
 友恵はうーんとそこで腕組みをした。 それから額に手を当ててそれがねえ思い出せないのよと呟く。
「何かお礼に貰ったんだと思うんだけど、何を貰ったのかどうしても思い出せなくて。 夢でもそのおじさまに声をかけるところで終わっちゃってるのよ。 でもスッゴクいいものを貰ったような気がするんだ。 うーん気になるぅ」
 それ俺のほうが気になるだろ!と虎徹が言った。
「うわ、俺も気になるじゃん。 今日帰るまでに思い出しとけよ」
「虎徹君無茶言うなあ」
 ご馳走様〜と虎徹が立ち上がり、友恵が一緒に玄関まで向かった。
「今日はこれから洗濯と掃除するからここでね」
「オッケー」
 虎徹が振り返ってハンチング帽を取る。
それからちゅっちゅっと友恵の頬にキス、額にキス、それから唇に一回キス。
「行ってきます〜」
「頑張って早めに始末書提出してきてね」
「だっ!」
 ドアを開けて虎徹が振り返り手を振りながらモノレールへと向かうのを見送る。
ドアに寄りかかりながら右手を振っていた友恵は、家からブロンズの舗装道路へ伸びる階段の下、手すりの向こう側に自分をにこにこと見上げる少女の姿を見た。
「あら」
 今日こそどこからきたのか聞いてみよう、出来れば名前もなどと思い友恵が扉から身体を話してその子の元へと向かおうとしたとき、遠くから「友恵ちゃーん! いってくんねー」と虎徹が声をかけてきたので友恵も手を振り返した。
 それから改めて友恵が少女の方を再び振り返った時、そこにはもう少女の姿は無かった。


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