いつもゾロがもたれ掛かっている柱の前に座りもたれ掛かってみる。島に出ていった皆がいなくて暇だったからだけど、よくこんな硬い木で眠れるなぁって思いながらぼーっとしていると硬いとか関係なくウトウトしてくる。首がカクンとなり顔を上げると、そこには口元が笑っているゾロが立っていた。



「寝りゃあいいじゃねェか」

「…もう眠くなくなった」



眠気よりも恥ずかしさが勝った瞬間。今度は少しだけ声を出して笑いながら私の隣に胡座で座った。別にこんなに狭い場所に座らなくても、って思ったけど私が座ってる場所っていうのはゾロがいつも居眠りしてる場所で。ごめんね、って立ち上がろうとすれば腕を引いてンだよそんなに俺と居たくねェかとか言うから私はそのまま座った。ゾロってこんなキャラだっけ。



「買い物終わったの?」

「特に何もなかった」



大きな欠伸をしてダランと背中に体重を預ける。私もつられて小さく欠伸をしたら笑われた。
ここ最近はとっても天気が良くて、気温や気候も文句なしに過ごしやすい。ぼーっとしているだけならそりゃあ眠くもなるもんだろう。寝ないけど。



「オメェもたまにゃ出掛けりゃいいのに」

「欲しい物ないんだもん」

「ナミみたいに服とか、美味ぇモン食うとかする事はいくらでもあるンじゃねェのか」

「…なんか」



なんだ?と私を横目で見るゾロから私は視線を逸らした。今さらかもしれないし、バカにされるかもしれない。抱えた膝に顔を埋めるようにしていれば、ゾロは余計に気になったようで何だよと私を見ている。隠すようなことでも、ないんだけど。



「一人って、怖いし」



ボソッと呟いた私に、一瞬止まったゾロは堪えきれないように口角を上げて笑った。ほらバカにした、って軽くゾロの腕を叩くけどニヤニヤしたまま私を見る。もうやだ言わなきゃ良かった、って私が拗ねた様子を見せると悪ィ悪ィと悪気もなさげにそう言った。相変わらず口元は笑ったまま。
欲しい物がない、は本当にそう。服は今あるだけで十分に足りてるし、美味しいものなら毎日サンジが食べさせてくれる。たまにはブラブラしたいなって思うことも、そりゃたまにはあるけど、でも知らない町を一人で歩くのはやっぱりどこか不安だ。治安がいいとか言われたって、そんな町でルフィやゾロが時々騒ぎを起こしたりしてるのを見ると余計に行きたくない。少しくらい戦えたら良かった、なんて思ったって今更どうしようもない。毎回ナミがくれるお小遣いは貯まっていく一方だ。



「ンなの、早く言えよ」

「…欲しい物がないのも本当だから、別にいい」

「つまんねェだけだろ、船の上なんて」



それも、そうだけど。だけどこうやってゾロや、サンジが気を遣って早く帰ってきてくれるから別にいい。…けど、二人ももっとゆっくり買い物したいよなぁって、そう思うと申し訳ない気持ちになってくる。何も無かったってゾロは言ったけど、本当は多分、私の為に早く帰ってきてくれたんだって何と無く分かる。本当はもっとお酒飲んだりしたいはずだ。もう、本当何なんだろう私。



「何拗ねてンだよ」

「拗ねてるわけじゃないよ、ただ、」

「ただ?」

「…なんかごめんね、いつも気遣わせちゃって。もっとゆっくり出掛けてきてもいいんだよ、留守番くらい私一人でも大丈夫だから」



何故だか少しだけ泣きそうになって、私は自分の膝に顔を埋めた。ゾロがため息ついたのが分かって、また胸がギュッとなった。こんなに落ち込んだりするの、すごく久しぶりかもしれない。こうやって気を遣われることに少し甘えすぎてたのかもしれないって、今やっと気付いた。ゾロにしてみれば今の私はただ拗ねているだけに見えてるんだろうか。悪循環だ。私は本当に拗ねている訳じゃない。ただ、申し訳ないってそれだけ。



「俺ァ別にむーの為に帰ってきてるわけじゃねェし、ましてや気なんか遣ってるつもりもねェよ。つーか我が儘くらい言えよ、ルフィもナミも、全員が好き勝手言いたい放題だろうが。今更何言われても何も思わねェよ」



うん、と私が小さく声を出すとゾロはまた溜め息。分かってねェなァって、ガシガシ私の頭を撫でたゾロはじゃあ明日、と続ける。



「一緒に島に降りンぞ」

「…え、いいよそんなの」

「拗ねンな面倒臭ェ。行くっつったら行くんだよ、決定だからな!」



何だかいつもと違って強引なゾロに、思わずフフッと笑ってしまう。本当に拗ねてたわけじゃないんだよ、って伝えるとわかったっつーのと投げ遣りに帰ってくる。ゾロの優しさと、今まで見たことないくらいの耳の赤さと、それからどちらかと言えばゾロが我が儘言ってるんじゃないのっていう其れが私の笑いを止めてくれない。ふふ、と笑い続ける私にゾロは不貞腐れたように膝に肘を乗せ、手に顎を乗せて溜め息をついた。



「ありがとう」



本当に嬉しかった。本当に本当に、嬉しかったんだ。笑いながらそう伝えれば、ゾロは更に耳を真っ赤にしてそっぽを向く。私はまたふふっと笑いながらゾロにもたれ掛かって、もう一度ありがとうと呟いた。


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