塾の授業と授業の休憩の時間、私はいつの間にか指定席になっている席で携帯を触ったり教科書を開いたりする。勝呂くんに勉強を教えてもらうこともたまにあるし、志摩くんや三輪くんと話したりもする。囲まれるように聞こえてくる京都弁には、時々思い出したように不思議な感覚になったりするけど最近は何だか落ち着くような気がしなくもない。標準語と呼ばれるものに慣れている私にしてみれば、京都弁と呼ばれるそれはどこか少し柔らかいような感じがする。気がする。
「3人共京都出身なんだよね」
「…は?なんや突然」
「そうですけど、えらい突然でしたね」
「いや、なんか突然思っただけなんだけど」
「むむむさん京都来たことある?」
はぁ?と元々悪い目付きを更に悪くして私を見る勝呂くんと、何だか嬉しそうな三輪くんと、この話題に乗り気な志摩くん。3人それぞれの反応に私が曖昧に返す。だって特に何かを考えて言った訳じゃないし、反応を返されるとそれはそれで困ったもんだ。取り敢えず志摩くんの質問に行ったことない、と返すと皆は更に食い付いてくる。
「ええとこですよ京都は」
「有名な場所もようけあるし、今度案内しよか?」
「アホか!志摩みたいな奴に案内されたって京都の良さは伝わらん」
「ほな坊が案内してあげたらどうです?」
「お前らで勝手にやっとけ」
「え、いやいいよ、京都行く予定とかないし」
盛り上がり始める三人(勝呂くんは巻き込まれてるだけだけど)に私がそんな事を言うと、志摩くんが溜め息を吐いて苦笑いで私を見る。
「冷めてんなぁ」
そう呟いた志摩くんに私は何も言えなくなった。冷めてる、のかなって。もっと会話を弾ませるようなこと言った方がよかったのかな、ってさっきの自分に後悔が生まれる。だけど京都なんて本当にいつ行けるかわからないし志摩くんも冗談で言ったかもしれないし……ああもうわかんないや。
「どうせ志摩も本気ちゃうんやろ、こんなやつの言うこといちいち真に受けとんな」
「何で坊が怒ってるんですか…」
「こいつ見とるとイライラすんねん」
三輪くんも志摩くんも困ったように勝呂くんを落ち着かせている。気にすることないですよ、とかフォローしてくれるけど勝呂くんにこういう事を言われるのは別に初めてなんかじゃない私には別にそこまでダメージもない。慣れ、っていうのか何て言うか。勝呂くんがこういう人だっていうの何と無く分かってるから平気なのかも知れない。逆に普段からニコニコと愛想のいい志摩くんに苦笑いをさせて、おまけに「冷めてる」なんて言わせてしまった事の方が申し訳ない。冷めてる、つもりはないんだけど。
「行くかわからない、けど、行ってみたいとは思ってるよ。金閣寺とか清水寺とか、写真でしか見たことないし」
「本物は写真なんかより何倍もいいもんですよ。季節によっても全然違う景色に見えたりしますから」
「京都に住んでてもお寺とかってやっぱり見たりするの?」
「誇りですからね」
嬉しそうな三輪くんと、志摩くんもいつもみたいに笑った。相変わらずムスッとしたままの勝呂くんだけど、彼に関してはこれが普通なのかもしれない。
「もし京都行けたら、ホンマに案内するよ」
「…ん、ありがとう」
「その時は坊の実家にも連れてくわ」
「お前はいちいち俺を巻き込むな!」
ニコッと笑った志摩くんに、今度は私も笑って返した。少しずつ仲良くなれてる、の、かな、って。思うと何だか少しだけフワッとしたような、不思議な気持ちになった。
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