塾の小テストが返ってきた。私にしてみればなかなか出来たような点数だけど、目の前の彼は盛大に、そりゃもう盛大に溜め息を吐いた。
「こんな点数で…よぉやってられんな」
私のそこそこの回答用紙を見た彼、勝呂君はピラッと自分の回答用紙を私に突き出した。丸ばっかりのそれを見ていると、そこそこ出来たと思っていた私のテストが酷いものだと思ってしまっても仕方ないかもしれない。
そもそも今のこの状況っていうのは、彼が私に勉強を教えてくれると言ってくれたからの状況。教えてなんて言ってないし、正直そこまで仲が良いわけでもないから少し気まずい。かなり、気まずい。だけど勉強が苦手な私にしてみればそれは有り難いことで、それに加えて有無を言わさずという彼のオーラに押されてこうなっている。いや、うん、助かるんだけど。
「頭いいね、勝呂くん」
「お前とは違うからな」
……いや、うん、そうなんだけど。何も言えずにプリントに立ち向かう。彼は強面な見た目によらず、薬草とか魔法円とか、面倒臭いであろう内容にも一つ一つ丁寧に解説してくれる。分かりやすくて「へぇ」とか「そっか」とか納得していると、そのたびに大きな溜め息が聞こえてくる。教えてくれるって言ったの勝呂くんだし、溜め息吐かれる理由とか正直分からなかったけど…面倒見が良いのだろう。小さな暴言に耐えつつ私は彼から得た情報を頭に詰め込んでいく。
一通り終わると、彼は大きく体を伸ばした。
「ありがとう…ごめんね、時間取らせちゃって」
「ああ?言い出したん俺やし別にええわ」
「…そうなんだけど」
「それにしてもほんまアホやな」
…また、こうやって。分かってるけどさ、実際そうだから何も言い返せないけど。黙りこくってプリントを折り畳んだ私に彼はまた溜め息。私が悪い訳じゃないのにそんな気がしてしまうから、溜め息ばっかりはずるい。
「また来週テストやろ」
「そうだっけ」
「そうだっけ、て…お前なぁ」
どれだけ溜め息を吐かせたらいいんだろう、私は。いや、私のせいじゃないんだけど、今回はテストの日にちを知らなかった私のせい、なのかもって思う気持ちもある。だけど私もいっぱいいっぱい。学園のテストももうすぐだし、私の頭は塾のテストよりそっちにもってかれてる。…あ、そうだ。
私がチラッと勝呂くんを見ると、彼は訝しげに私を見る。目を細めていると彼は本当に、ただのヤンキー。
「何?」
「…や、なんでも、」
「何かあるなら言えや」
思いきって口にした言葉に、彼は細めていた目を大きく広げた。予想外だったのだろう、鼻で笑ったのは気になったけど表情を和らげた。
「その代わり、ええ点数取らな覚えとけよ」
頷くと、彼は鞄から参考書や教科書、自分のノートをドサッと机に置いた。これで私の学園のテストもバッチリだろう。やる気になった私を見て、勝呂くんがまた小さく笑っていた事を私は知らない。
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