今日1日の最後の授業が終わる。
筆箱や宿題を鞄に詰め込んで、今日は図書館でもなく直帰するわけでもなく、目的地は本屋。
授業が終わってからすぐに帰る生徒は意外と少なくて、ほとんど人のいない下駄箱でそっと靴を履き替える。



「お疲れ様です」

「あ…お疲れ様、です」



私のクラスのロッカーの反対側から聞こえてきたその声に、顔をあげれば祐希くんがいた。
今日はいつもの皆とは別行動らしく、周りには誰もいない。



「もう帰るんですか」

「や、今日はちょっと本屋に行こうと思って」

「あ」

「…あ、?」

「俺もです、本屋」



そう呟いた祐希くんはローファーに足を突っ込んで一息。

下に向いていた視線が上がると、次に祐希くんの視線が向いたのは私だった。
綺麗な顔だなぁ、なんて思いながら少し緊張してしまう。



「……一緒に行きますか」



そんな思いがけぬお誘いに少し驚いたけど、私が頷くのを確認して祐希くんはゆっくりと歩き出した。
こうやって一緒に歩くのは、初めてじゃないけどまだ2回目か3回目くらい。
いつも特に話すことはないけど、さりげなく道路側を歩いてくれたり歩く速さを合わせてくれたり、そんな気遣いがなんとなく嬉しい。
何と無く、っていうか、嬉しい。

本屋に着いて、私と祐希くんは目的の本の場所にそれぞれ向かう。
洋服の雑誌を一冊手に取り、それから漫画のコーナーに移動。
新しいの出てるかなぁって、雑誌を両手で抱えながら全面に押し出されている新刊ゾーンを眺める。



「むむむさんも漫画とか読むんですか」

「…あ、うん読むよ、漫画」



話し掛けてくれた祐希くんを見ると、片手に持たれているアニメ雑誌が目に入った。
隣に並ぶ彼に、人知れず緊張してしまう。



「漫画とかアニメ、好きなの?」

「まぁ…はい」



一瞬気まずそうに目を伏せた祐希くんの反応が何だか少し新鮮に感じた。
私は別に、漫画やアニメに偏見なんて持ってないし、オタクだろうが何だろうが別に構わないと思う。
それでももしかしたら、少し気にしてるのかなぁ、って。



「なんか、面白い漫画とかって、ある?」



私のその問い掛けに一瞬固まると、隣の新刊ゾーンに移動して今日買おうとしている漫画を手に取って私に見せてくれた。
タイトルは何と無く聞いたことあるかなっていうそんな漫画。



「むむむさんはどんな漫画を読むんですか」

「私は、なんだろ…少女漫画はあんまり読まない、かな。どっちかといえば少年漫画とかの方が好き、かもしれない、かな?」

「…なんか意外ですね」

「……そう?」



コクンと頷いた祐希くんはもう一冊の新刊を手に取って、一緒にレジに向かった。
お会計を済ませて本屋を出る。
…なんかこういうの、放課後デートっぽいのかな、なんて思うと少し照れ臭い。
本屋を出ると、祐希くんは欲しかった本が買えてご機嫌なのかいつもより少しだけ饒舌になる。
私が読んでる漫画のことを聞いてくれたり、祐希くんが最近気になる漫画やアニメを教えてくれたり、これはオススメですっていうタイトルをいくつか教えてくれたり。



「…あの」

「ん?」

「もしよかったら貸します、よ」



良かったら読んでみてください、と、聞き取り難いくらい小さな声でそう言った。
いいの?と尋ねれば小さく頷いてそれから、明日持ってきます、とそう言ってくれるそれが、どうしようもなく嬉しく感じる。



「あの、ごめんねわざわざ私の家まで送ってくれて…ありがとう、あのじゃあ、また、明日、」



ペコッと頭を下げた祐希くんは、私が振ったように小さく手を振り返してくれた。
その動作がなんだか可愛く思えて、自然と口元がゆるんでしまう。
少し丸まった背中を見送りながら、私は“明日”が凄く待ち遠しいとそんなことを思うのだ。






また、明日。











―――――
もしも祐希が好きだったら。
なんか普通の番外編みたいになっちゃったな…。うちの子は結局誰に恋しても、普段の態度とはあんまり変わらないと思いました。作文。


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「見えない臓器の名前は」
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