好きになったのはいつ頃だったか。付き合い始めたのはいつ頃だったか。きっとこれは成り行きで、だけど私にとっての運命、なのかもしれない。



「まさか結婚しちゃうとはねぇ」



優雅に紅茶を啜ったナミが、可笑しそうに笑い声を上げた。私だってまさかこんな風になるなんて思わなかった。流されてここまできてしまった、と言えば彼に失礼かもしれないけど、何だかあっという間だったというか。実感がないというか。
私もミルクティーを口に含む。ああやっぱりサンジの入れるミルクティーは世界で一番美味しいかもしれない、そんなことを思いながらロビンを追いかける彼―――私の旦那さんに目を向ける。



「いいの?あんな旦那さんで」

「うん、あんな旦那さんが、いいんだよ」



ふふっ、と笑ったナミに私も少し笑ってしまう。付き合ってからも、結婚してからも彼は全く変わらない。
結婚、旦那さん、とは言うけどここは変わらず船の上。式を挙げた訳でも、正式に籍を入れたわけでもない。そもそも海賊である私たちに、そんな夢のような行事はきっと望んだって無理なこと。ただ付き合って、それから結婚しようって言われて。それだけ。だけど私はその言葉に確かに頷いて、正式にではないけれど夫婦っていうかたちになった。



「まさかむーとサンジが、ねぇ?」

「私もびっくりだよ」

「幸せそうな顔しちゃって!」



サンジのご両親にも会えないし、勿論私の両親にだって会えない。挨拶どころかお互いの両親の顔すら知らない。まさか、こっちの世界でこんな風になるとは思わなかったし、誰も思ってなんかいなかったと思う。皆に言ったときのあの反応は、今でも思い出すたびに笑いが込み上げて来そうになる。



「むーちゃーん……と、ナミさん!」

「奥さんの前でそれはないでしょサンジくん」



いやつい、なんて悪気もなさそうな彼は当然のように私の隣に座る。薬指に光る指輪が何だかすこしくすぐったい。高いものじゃないけど、お揃いのそれが不思議な気分を醸し出す。…――結婚か、なんて。考えるけど実感なんてないし本当に不思議な気分になる。
式は挙げられないし夫婦らしいことなんて何も出来ないかもしれない。危険もいっぱいあるし、いつ死ぬかだってわからない。だけどそれでもいいって、思える人だった。守ってくれると、信じられる人。なのだ。彼は。



「さて今からは夫婦水入らずの時間かしら?邪魔者は退散しましょうかね」



立ち上がったナミが部屋を出ていく。残された部屋には私とサンジ。



「今日の夕飯は何がいい?」

「…普通なら私が聞くことだよね」

「むーちゃんの為なら旦那にでも、嫁さんにでもなってやるよ」



煙草を蒸かして笑った彼に、私もつられて笑ってしまうのだ。










(もしもサンジと新婚だったら)


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