春も終わり、もうすぐ夏がやってくる。
ブレザーを着ている人はもういなくて、カーディガンを着ている人がほんの数人居るくらい。
私は一応まだカーディガンは着てるけど、もうそろそろ暑いから着てくるのやめようと思う。
今だってほら、袖捲ってるくらいだし。
岬ちゃんなんか二の腕までカーディガンを捲り上げてる。
脱げばいいのにっていうけど半袖はなんかダサいからまだ嫌なんだって冷たいジュースを飲んでる。
私もパックのオレンジジュースを飲みながら、暑くなったよねーってそんな話。
「で、どうなの?」
どうなの?って、その質問に首をかしげる私に岬ちゃんは、人差し指で私のオデコを突っついた。
「あーさーば」
あ さ ば。
飲もうとしていたパックを持つ手が止まり、固まった私を見て彼女はプッと噴き出した。
「ないよ、なんにも」
そう、なんにも。
浅羽くんとはこの間席替えで席が離れてから、接点はほとんど無くなった。
これが普通なんだろうけど、やっぱりなんだかちょっと寂しいと思うときはある。
前後だったときはプリントもそうだし「おはよう」とかそうやって声を掛けてくれることもあった。
日直も一緒にしたことあるし、消しゴム貸してって言われたこともある。
些細なことかもしれないけどそれだけで胸のドキドキは最高潮だったなぁって、それももう今じゃただの思い出。
「話しかけなよ」
「え、む、無理だよ話すことないもん…!」
「まぁねぇ…そうなんだけどさぁ」
岬ちゃんはジュースを飲みながら、なに話せばいいんだろうねぇなんて考え始める。
ジュースを飲みきって、私の分のパックも持って捨ててくるねって教室の後ろにあるゴミ箱まで歩いていった。
小さくため息。
…本当は、話したい、んだけどなぁ。
「むむむさん」
机に向けていた視線を上げると、浅羽くんが私を見下ろしている。
びっくりして気の利いたことなんて何も言えない私は、え?とか、あっ、とか何?とかそんなことばっかり。
キョロキョロ移動してしまう視線が不自然極まりないんだと思うと申し訳無い。
「社会のノート提出してないって先生から伝言あったよ」
「…あ、ありがとう……」
コクコク頷いて、浅羽くんも無表情で一度頷いて、そのまま自分の席に戻っていった。
久しぶりにこんなに、ドキドキしてる。
「なになに?何の話?」
ニヤニヤした岬ちゃんが椅子に座って私の顔を覗き混む。
ただの伝言だよって言えば、それでも彼女は嬉しそうに私の髪をクシャッと撫でた。
よかったねってまるで自分の事のように喜んでくれる岬ちゃんを見て、いい友達持ったなぁってそんな事を思った。
その後のふたり
(進展は、ナシ)
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