今日は歴史の先生がいない。
授業は自習になり、歴史上の人物について調べてそのプリントを提出するらしい。
組み合わせは前後の席。
オレは後ろのむむむさんと。
「誰が気になる人とかいる?」
「誰でもいいんだけど…」
「まぁそうだよね」
むむむさんは割と大人しい子で、あんまり話した事がないのもあってか視線は行ったり来たり。
人見知りしてるのかもしれないけど、これはやらなきゃいけないからそれは我慢してもらうしかないんだけど。
調べる歴史上の人物なんて誰でも良くて、取り敢えず一冊だけ残っていた織田信長を調べることにした。
渡された真っ白な一枚の紙に、取り敢えずオレらの名前と織田信長の名前を記す。
無言でひたすら調べるから他の人たちよりも格段に早いスピードでプリントが埋まっていく。
正直この作業に2人も要るのかわからないけど、字を書いてくれてるのはむむむさんだから見てるのはオレ。
私が書いてていいの?って聞いてくれたけど、書いてくれるならそれは全然構わない。
「…書く?」
「いや…オレよりむむむさんが書いた方が見やすいと思うし」
困ったような申し訳なさそうな表情で笑ってから、再びシャーペンを動かしだした。
女の子らしい丸っこい字が並んでいく。
年表を書き写して、出来事や事件の内容をまとめていくとプリントは綺麗に埋まった。
「まだ時間あるね」
「そうだね」
他の人みたいにわいわいするんじゃなくて黙々とやってただけあって、チャイムが鳴るまでまだ15分くらいある。
気まずそうに視線を泳がせてる。
やっぱり人見知りなのかもしれない。
「この先生ってテスト難しいんだよね」
話し掛けてみると驚いたように一瞬目を見開いて、小さく笑いながらうんって頷いた。
「勉強してないところとか出してくるんだもん、全然分かんなかった」
「オレも。歴史マニアか要くらいだよ」
「塚原くん…って頭いいんだよね、学年トップだったっけ」
「勉強だけは出来るから」
勉強“だけ”っていう言葉に引っ掛かったのか、小さく首を傾げる。
学年トップで生徒会とか入ってるから堅いイメージがあるのかもしれないけど、むむむさんが抱くのは実際の要とは掛け離れたイメージ。
「要もオレらと一緒。ただの高校生ですよ」
浮かんだ笑みが優しくて。
大人しい印象しかなかったけど、きっと凄く優しい子なんだろうと思った。
まだ、よく知らない
(今は、まだ)
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