あんまり体調がよくないらしい。
朝から何となく違和感があったけど、風邪なんて滅多に引かないから気のせいだろうって誤魔化してた。
お昼ご飯もお腹が空かなくて食べなかったけど、今はお腹が気持ち悪くて仕方ない。
放課後の誰もいない教室で机に突っ伏してこれに耐える。
動きたくない、だけど帰るにも動かなきゃいけなくて、なんでもっと早く帰らなかったんだろうって今さら凄く後悔してたり。



「…大丈夫?」



突然頭の上から降ってきた声に顔を上げれば、そこには心配そうに私を覗き込む東先生の姿があった。
大丈夫ですって言ったけど思っていたより顔色が悪いらしく、保健室に行く事を勧められてその好意を断れず身体を奮い立たせる。
保健室まで付き添ってくれて中に入るとやっぱり誰もいなくて、東先生は取り敢えず胃薬を探しだして私に差し出してくれた。
仕事があるからごめんって、何故か謝りながら東先生は職員室に戻っていく。
ベッドに横になるのだってもう放課後だから躊躇うし、だからいつも先生が座ってる椅子に座ってゆっくり、さっきと同じように机にオデコをくっつけた。
ああでもこれなら帰ったほうがいいのかもしれないなぁ。
さっきより幾らか気分もマシになったような気がするし帰るなら今だと椅子から立ち上がる。
でもその前に保健室利用した事ってなんか書かなきゃいけないんだよなぁって、机に置いてある紙に名前と体調不良と胃薬を貰ったことを記入。
これでよし、と鞄を肩に引っ掛けてドアノブを掴んで捻ろうとした正にその瞬間にドアノブが勝手に回った。(これほんとにびっくりするんだよ!)



「…あ、ごめん」

「あ、いや、私もごめん…」



塚原くんを先頭に、浅羽兄弟と松岡くんが一緒にいる。
塚原くんはじっと私の顔を見ててなんか気まずくてちょっと目を逸らすと、悠太くんの頭から血が出ているのが見えた。



「…大丈夫?」

「いや、こいつは大丈夫だけどよ……お前こそ大丈夫かよ」



うん大丈夫だよ、って結構大丈夫じゃないけどそう答える。
それに塚原くん、こいつは大丈夫だけどよって言ったけど、私の心配よりも頭から血を流してる悠太くんの心配をしたほうが良いんじゃないだろうか、と思った。
皆が中に入ってきて私も何かしたほうがいいのかなって思ったけど、変な風に思われそうな気がしてやめた。
本当はすごく心配だったけど、私だってケガの手当てとかそんな知識ないし、何より声をかける勇気が出ないんだから仕方ない。



「むむむさん」



閉まりかけていたドアを引っ張って外に出ようとするとき、綺麗な声が私を呼び止めた。
振り向くと手当てをされている悠太くんが祐希くん越しに私を見てて、何考えてるか分からない表情に変な緊張感を覚えた。
助けてくれないんだとか言われるのかと怯んだけど、出て来た言葉に一瞬固まってしまう。



「おだいじに」



棒読みだなぁって、だけどそれも何だか嬉しくて、くすぐったい。
多分苦笑いみたいになってるんだろうなっていう笑顔を彼に向けて、ありがとう浅羽くんもお大事に、ってそうやって呟くのが精一杯。
もっと気の利いたこと言えばよかったとかそもそも聞こえたのかなぁとか色々後悔もあったけど、何だかちょっと恥ずかしくて照れくさい、そんな感情に気持ちの悪さもほんのちょっと薄れていた気がした。


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