夢を見た。
まるでドラえもんに出てくるのび太君の机の引き出しに潜り込んだような不思議な夢。
ぐねぐねと気持ち悪いくらいに揺らぐ視界を通り抜けて、着いた先は真っ白な光の中。

ガタン、という音に意識は覚醒し、鈍い痛みが身体中に襲い掛かる感覚に堪えながらゆっくりと重い瞼を開けた。
目に入るのは木造の古びた、これはきっと天井。
鼻を掠めるのはまるで薬のような不思議な匂いで、私死んでないんだとそんな事が頭を巡った。
真夜中の交差点で車に引かれた事は覚えている。
それからタイムマシンに乗ったのだ。
ここが何処なのかと確認をするために身体を起こそうと力を入れると、痛みは倍増。
苦痛に顔を歪めていると、上から制止するような手が伸びてきて、身体はまた押さえ付けられた。



「動くな。肋骨にヒビが入っている可能性がある」



まだ痛いままだけどさっきより幾らか柔んだ痛みにその手の主を見上げれば、切れ長の目に整った顔と、緑色の着物が目の端に入った。
病院じゃないんだ、と。
木造の天井な時点でその可能性はもう無いのかもしれないけど、医者らしからぬ服装の彼を見てそれは確信に変わる。



「肌着も…失礼ながら替えさせてもらった。何をしたかは知らないがその身体では暫く動けないだろう」



納得。
きっと暫く動けない。
だけどこの視界じゃうまく周りも見渡せなくて、ここが何処なのかっていう疑問は解決に導いていけない。
再び伸びてくる制止に「大丈夫」だと言えば、今度は渋々といった感じで起き上がるのを手伝ってくれた。
見渡しても見たことのない風景と、改めてちゃんと見た彼の姿に何だか分からないけど疑問が生まれてくる。

本当にここは何処なんだろう。



「腹は減ってないか?」

「……そういえば」

「三日も寝込んでいたのだ、当然だろう」

「みっ、か…!?」

「無理をするな」



いてて、と肋骨を軽く押さえると、彼は小さく溜め息を吐いて「飯を持ってくる」と部屋を出ていく。
自分が着ているのが着物だって理解したのもその時。
着替えさせてもらったんだ…って思うと今更ちょっと恥ずかしくなった。

静まり返った部屋を改めて見回しても全く見たことのない景色。
古びた部屋には薬みたいな匂いがしたちこめていて、見たことないものが沢山置いてある。
…本当に何処なんだ。
そんな風に思っているとさっきの彼が戻ってきて、その手にはお椀とお箸が持たれていた。



「お前には聞きたいことが沢山ある。土方さん達が帰ってきたら色々聞かれるだろうが素直に答える事だ。さもなくば斬られることも覚悟しておけ」



ぽかん、だった。
斬られる、って言ったよね、今。

渡されたお椀と向けられた視線に思わず恐縮してしまう。
お椀はほんのり温かい。



「嘘さえ吐かなければ斬られることはない。嘘を吐くならバレない嘘を吐くことだな」



冗談なのか本気なのか、それも分からないくらい彼の表情はかわらない。
それが余計に私の恐怖心を煽り、だけど何処かで安心もした。



「今は大人しくしていろ」



それだけ言い残して彼は部屋を出ていった。

疑問はまだ疑問のまま、私の頭をぐるぐると巡り巡る。
口にしたお粥の温かさが、なんだか私の胸に染みる気がした。


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