先生に頼まれた荷物を運び、教室に向かう。
放課後の校舎に残っている生徒は数える程度で、やけに静かな廊下に自分の足音だけが響く。
不思議な気分だ。
(…祐希の声)
聞き慣れた声に視線が廊下を辿っていけば、辿り着いた先には祐希と金髪と、女の子。
祐希が女の子と話すなんて珍しい…なんて思いながらその様子を眺める。
……此方側に背中を向けていて気付かなかったが、彼女は確かむーさん。
クラスが違うから関わりはほとんど無いが。
(……絡まれてる…)
物静かなイメージのある彼女は、傍から見れば金髪に絡まれているようにも見える。
困ったような笑顔を向けて――早足で、僅かに下を向きながらこっちに向かってきた。
何か言おうと無意識に思考が働く。
彼女が隣を通り過ぎようとしてほんの少し顔を上げた時、
「むーまた明日なー!」
突如響いた金髪の声に、俺に背を向けるようにしてさっきまで居た場所に振り返った。
大きく手を振る金髪と小さく手を振る祐希に、照れたような笑顔を浮かべて振り返す。
そのまま、通り過ぎた。
「あ、ゆーたんなにしてんのー?」
「うわぁこっそり見てたんだ。悠太のえっち」
「いやあのたまたまですから」
俺に気付いて駆け寄ってくる2人。
静かだったはずの空気が一瞬にして騒がしく変わる。
そして騒ぐだけ騒いだ金髪はふらふらと去っていった。
まるで台風。
「むむむさんと仲良かったっけ」
「漫研の部長です」
「…そうなんだ。部活来いって?」
「たまに顔出してって言われた。あと今日は髪結んでるんだですねって言われた」
「だですね?」
「だですね」
…サッパリなんだけど。
早く外行こーよーって駄々を捏ね始めた祐希の為に用事を済ませる。
(だですね…)
何だろうなんてことを考えながら、祐希に合わせてゆっくり足を動かした。
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