この春、無事に無難に進学した私は穂稀高校2年5組の一員になった。
一度目の席替えは生徒の要望ですぐに行われ、廊下側の一番後ろっていう微妙な場所、だけど私にとってはすごく嬉しくてすごく緊張する場所になった。



「プリント多いから無くさないようになー」



前から回ってくるプリントを受け取るこの瞬間は緊張でいっぱいになる。
何故ならば前の席にいるのは浅羽悠太くんだからだ。
浅羽くんといえば隣のクラスに双子の弟さんがいて、二人揃って容姿端麗なもんだから先輩からも後輩からも大人気。

…あれ、なかなかプリントが回ってこない。
そう思っていると、まとまった束のプリントが一度で渡される。



「ごめん、めんどくさかったから」

「や、うん…ありがとう」



すぐに前を向いてしまうけど、ああなんだろう凄く、嬉しい。
私だって女子。
他の子達と同じように浅羽くんに淡い感情を抱いている、一人。
同じクラスになれただけでも嬉しかったのに、まさか、前後の席になれるなんて。(今年はツいてるかもしれない)



「むむむさん」



ぼーっと眺めていた細くて大きな背中。
突然振り向いた彼が私を呼んだことに、心臓は大きく跳ねる。
何事かと、え?なんて言えば彼が指差すはプリントの一番上に重ねられていたアンケート用紙。(あ、なんか、嫌な予感)



「これ、回収…」

「え?あ…ごめ、!」



未だ真っ白なままのアンケート用紙に急いで必要事項を書き留めていく。
字が汚いとかもう関係ない。
他の列はもう提出していて後は私だけらしく、一番前にいる生徒はまだなのかと私を見ている。
ごめんね、ごめんね、って謝りながらプリントを回収して、他の列よりも幾らか遅れて先生に提出をした。


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