悠太くんと並んで座る、この慣れない空気にどうしようって思ってしまう。
何か話せばいいんだろうけど何も思い浮かばない。
わざわざ来てくれなくても他の人のところとか、そこで話してても良かったのになぁって、申し訳無い。



「楽しみですね」

「…あ、うん、そうだね」



そうだね、って。
せっかく話しかけてくれたのにその一瞬で会話が止まる。
なんか、本当に申し訳無い。
心臓がドキドキして、何だか落ち着かない。
気遣わせちゃってるかな、とか色々考えちゃうとどんどん悲しくなってくる。
ああもう早く戻ってきて岬ちゃん、そう思いながら私の頭は言葉を探す。
何も浮かばないけど。



「おおっとそこの楽しそうな二人ーっ!」

「ちょっとうるさいですよ」



勢いよく元気にやってきたのは橘くん。
インスタントカメラを構えてやってきた彼は「はいはい寄って寄って!」なんて言いながら悠太くんの肩を押した。
ピッタリくっついた肩。
恥ずかしい!って思う暇もないくらい、橘くんは勢いがいい。



「はいはい笑って笑って!これからの楽しい京都のことを思って!」



とりあえずピース。
シャッターを押すと橘くんは満足そうに笑って立ち去っていった。
まるで嵐のような人だと思う。
ほんとに。
橘くんが気を遣ってくれたのかもしれない、って思うとちょっと嬉しく思う。



「むーさんは自由行動どこ行くの?」

「…えっ、と……まだ決まってないんだ。……悠太くんたちはどこ行くの?」

「俺らもまだ決まってないよ。なんか、適当に、たぶん」



取り敢えず落ち着こうとまたお茶をひとくち。
私なんかにもこうやって普通に話し掛けてくれるのが嬉しい。
緊張もするけど、やっぱり嬉しい。
緊張が少しずつ解れていく。
まだ少しは緊張はするけど。



「京都ってお寺とかしかほとんど知らないから、何すればいいのかよく分からないっていうか」

「あ、私も、京都で抹茶とか八つ橋とか、食べれたらいいなぁくらいだよ」

「いいですね、それも。…あとは人力車とか乗ってみたいかも」

「楽しそうだよねぇ」



会話が成立していく。
やっぱり恥ずかしくて隣はあんまり見れないけど、時々見る悠太くんがやっぱりかっこよくてドキドキした。
こんなに話したことあったかなぁって思うとそれはそれは嬉しい事で。



「あ、そうだこれ良かったら」

「……あ、ありがとう!」



ブレザーのポケットに手を入れて、彼の手に握られていたそれは1つの飴。
私の手に乗せてくれたそれと、一瞬触れた手に熱が集まる気がしてくる。
なんか凄く幸せだって思った。



「浅羽ごめん、もういいよたっぷり貰ってきたから」

「…それが目的でしたか」



岬ちゃんが戻ってきて、入れ代わってそこに座る。
手に持っていたのは沢山のお菓子。
食べよ食べよ、と嬉しそうに笑う彼女に私も顔が綻ぶ。



「どうだった?」

「も…緊張したよー!」

「ごめんごめん、でも楽しそうに話してたじゃん」



きっと私の為。
悠太くんと話していた時間はほんの数分間だったけど、私にとっては何時間にも思えるような時間。
いい旅になりそうだよって言うと、笑った岬ちゃんの肩が私の肩をドンッと押した。


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